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第2話 ハトじゃありません、鳰です

 にお 晴幸はるゆき

 これが俺の名前だ。

 晴れやかに、自分にも他人にも幸せを与える人間になってほしい。との願いを込められた付けられた名前。

 しかし、ほとんどの友人・初対面の人は苗字しか頭に入っていない。


 そして、漢字で書くとほとんどの人は「ハト」と間違える。

 鳰とはニオドリ、カイツブリという鳥の名前。

 どういう経緯を持って、こんな苗字なのかは知らないが、鳩との違いは入と九だ。

 しかし、これを説明した所でほとんどの人は興味を持たない。ハトちゃんと呼ばれておしまいなのだ。


 北条湊の紹介も終わり、午前中の授業が始まる。

 しかし、ほとんどの者は北条湊に注目をし、この俺でさえ、チラチラと横を見てしまうほどだ。

 だが、横を見るたびに北条湊は机に突っ伏し、テレビで見たような輝いている姿では無い。

 まぁ雰囲気が学生らしいという点においては的を得ているわけだが…。


 それにしても…いつ頃、気が付くんだろうな。

 北条湊が俺に対して勘違いしている事を。



「ハル!お前のクラスにすげーのいるんだってな!」


 昼休み、中庭の太陽の光がよく照らされる芝の上。

 いつもの場所で、いつものメンバーとお弁当を広げ、俺の兄である一彦が楽しそうな表情をしながら話かけてくる。


「すげーって?北条湊のこと?」

「ああ。あんな有名人がこの城青学園に入学してくれるなんて、ついにこの学校も本気ってわけだな!」

「人の事を言えた義理なのか?」

「そうよ、カズちゃんも相当の有名人だよ?」

「俺は~、ほら、テレビなんかに出てないし」

「カズちゃんの場合、寝てるか走ってるかだもんね。テレビ的には面白くない。あ、これおいしい!ハルの新作?」

「さすが恵子。甘辛くしてみたんだ」

「ハルは本当にすごいね。カズちゃんも見習いなよ」

「ハルはハル、俺は俺。俺も実は陸上で凄かったりする」


 自慢げに話をする一彦だが、陸上が凄いのは本当だ。

 特に5000・10000m競技に関しては高校2年生ながら他を寄せ付けないほどの速さを誇る。

 その速さの裏には考えられない量の練習量のおかげだ!という人物も多いが、実際には他の生徒と練習量は若干多いぐらいだ。

 一彦が圧倒的なまでに速い理由は多くあるが最も影響するのは心肺機能と筋肉の質だ。

 1分間に30台後半というずば抜けて高い心肺機能が一彦の競技を支える。

 実際にはもう少し高いらしいが、安静状態では常人では考えられないほど低い。

 そして、乳酸の溜まりにくい筋肉質。

 ここら辺のことは詳しくないのだが、乳酸が溜まりにくいという筋肉を持つ人間ってのがいるらしい。

 その人間ってのが一彦。本人は「しんどいものはしんどい!」と言っているけど。


 そんな人間離れした一彦でも逆らえない人間がいる。

 それが今、一緒にお弁当を食べている恵子だ。

 水谷みずたに 恵子けいこ


 一彦の彼女であり、俺達の幼馴染でもある。

 小さい頃から、彼女が俺達の手綱を掴んでいたと言っても過言ではないほど、彼女は人を操ることに長けていると思う。

 そして、一彦のセンスを一番最初に見抜いた人間でもある。

 今の一彦があるのは彼女のおかげだろう。


「カズちゃんは陸上ばっかりでも良いけど、勉強もしないとダメだよ」

「勉強なぁ…眠たくなるじゃん?そういうのはハルの専門で」

「ハルちゃんの脳細胞を少しでも分けてあげられたらカズちゃんも少しは頭が良くなるかな…」


 恵子はバカなことを呟きながら真剣な目で俺と一彦を見比べる。

 …冗談でもそれはないだろう!とはツッコめない。だって、結構マジだったりするから。

 俺と一彦の中で暗黙の了解があるのだ。恵子が冗談を言ってそれに反応することはダメだと。

 反応をしてしまえば、彼女はそれを肯定と捕え、行動に移そうとする。

 例えば、今回のように脳細胞を分ける…とマッドサイエンティスト並みな事はすること無いが、一彦の脳が爆発するのではないか?俺の自由を奪ってしまうのではないか?と思わせるほどの行動はしてくる。


 まぁ、今回の例で言えば、恵子が作ったテストで満点になるまで眠ることは許されず、私語も許されない時間が40時間ぐらい用意されるだろう。


「は、話は戻すけど、北条湊って陸上部に入るのか?」

「さぁ?入るんじゃないの」

「ふ~ん。まぁ俺にとって関係ないけど。あ、そうだ、今日もよろしく頼むな」

「わかってる。それよりも早く食べ終われよ。もう昼休み終わる」


 腕時計があと10分で昼休みを終える事を教えてくれる。

 ダラダラと話しているとすぐに時間が過ぎる。

 一彦は弁当の中身を口の中に入れて行き、その横では恵子がまだどうやって脳細胞を分けるのかを考えている様子だった。



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