ファーストキス
僕は思った。できない。無理だ。
「じゃあ、私から脱ぎますね。」
彼女は身につけていたドレスを脱ごうとしていた。
僕はとっさに彼女の腕をつかんだ。
「えっ、どうしたんですか!?」
彼女はとても驚いていた。
「脱がなくていいです。」
「え、どうして?」
「今日は何もしなくていいです。」
「え・・プレイしないってことですか?」
「はい。」
「どうして!? 高いお金を払ってるんじゃないですか。」
「今日は、いいんです。そういう気分じゃないんです。」
「体調が悪いんですか? それとも・・私に魅力がないからですか?」
「いや、あなたはとても魅力的です。んん、その、なんていうか魅力的だからそういうことしたくないっていうか・・その、もっと話したいです。だからこのまま僕とお話しててくれませんか」
その後も彼女はプレイしようと必死で僕を説得した。
しかし、僕は断固として断った。
結局、何もしないまま終了時間を迎えてしまった。
「あの、本当によかったんですか?」
「はい、とても楽しかったです。」
「あなたみたいなお客さんは初めてです。」
「そうなんですか・・」
「あの・・キスしてもいいですか?」
彼女の突然のこの言葉に僕はどう答えていいか分からなかった。質問に答えられず、ただ困惑していた。
すると、彼女の美しい顔が香水のいい香りと共に、僕の横から忍び寄るように近づいてきた。
目を閉じて顔を斜めに傾けた美しい彼女の顔が僕の目の前に浮かんだ。
夢でも見ているような感覚だった。
そしてあっという間に彼女の柔らかい唇が僕の唇に触れた。
脳に稲妻が走ったような感覚だった。
体中が火で燃えているように熱くなり、言葉では言い表せないなんとも言えないぬくもりと安心感で満たされた。
この瞬間、僕の心に何かが芽生えた。
それは今までの人生で一度も芽生えたことがなかった恋心というものだった。
これが僕のファーストキスだった。