そろそろ脱ぎましょうか。
彼女はまるで可愛いペットを見るような眼差しで僕を見つめていた。僕の顔は、恥ずかしさで真っ赤になっていた。
彼女はやさしい笑顔で僕にほほ笑んでいたが、僕はずっと下を向いていた。
「あの、結婚されてるんですか?」
僕は顔をゆっくりと顔をあげた。
「いえ、独身です。」
「そうなんですか。なんだか、とってもうらやましいです。カノジョさんが。」
「えっ! ・・」
僕は一瞬、彼女の言っていることが分からなかった。
「・・あなたのカノジョがとってもうらやましいです。」
「あぁぁ、いや、カノジョなんて・・いません。」
「絶対うそ~」
「本当です。」
「また~」
「・・・」
僕は姿勢を正して彼女の顔を見て、少し強い口調で言った。
「本当に、いないんです。嘘じゃありません。」
彼女は少し驚いたような表情になった。
「本当にいないんですか?」
「はい。」
彼女はうれしそうにほほ笑んだ。
「じゃ、今夜は私があなたを独り占めできるんですね。なんちゃって。ふふふ」
僕は何も言葉が出ず、ただ心臓の鼓動だけが速くなっていった。
次の瞬間、彼女は突然大きな声をあげた。
「あぁっ しまった!」
「どうしたんですか!?」
「ごめんなさい。お風呂のお湯入れ忘れてました。すぐ入れますね。」
彼女は水道の蛇口をひねり、お湯を出しはじめた。
蛇口から流れ出る水は、まるで童貞喪失までのタイムリミットの砂時計のようだった。
「本当にすみません。あたしったら緊張しちゃって、すっかり忘れてました。」
「いえ、大丈夫です。」
緊張? どうして彼女が緊張するんだ・・
緊張してるのは僕の方だよ。なんてったって初めてなんだから。
蛇口にお湯を入れ始めてから、僕は平常心を保てなくなっていった。
何だか無性に腹が立ってきた。
何で加藤さんは僕をこんなところに連れてきたんだ。いや、加藤さんが悪いんじゃない。僕が悪いんだ。なぜ断らなかったんだ。
情けないことに、僕は自分自身を責め始めた。
徐々にお湯が溜まっていく。もう時間がない。
どうする・・
「あの・・」
彼女が口を開いた。
「そろそろ脱ぎましょうか。」
「!!・・」
僕は心臓を吐き出しそうなくらいの緊張に襲われた。
どうしよう・・
神様ぁっ。