初めてです。
僕たちは微笑み合いながら、2人でクッキーを食べた。
なんだか不思議な感覚だった。
彼女に会ってから10分くらいしか経っていないのに、まるで家族と一緒にいるような親近感や安心感のようなものがあった。
なぜなんだろう・・
今まで女性に対してこんな気持ちを抱いたことはなかった。
この人は本当に他人なんだろうか。
「今日、1人で来たんですか?」
この彼女の質問で、僕は一気に現実に引き戻された。そうだ、僕は加藤さんと一緒にここに来た。ここは風俗なんだ。それもソープランド。
「いえ、会社の先輩と2人で来ました。」
「へぇ。こういうお店・・よく来るんですか?」
なんて答えればいいんだろう。
「初めてです」なんて言いづらいよな。
でも、初めてだし。
5秒ほど沈黙になり、彼女は少し首を傾げた。
彼女の目を見ていたら、なんだか
嘘はつけない・・って思った。
「あの、実はこういうとこ来るの初めてなんです。」
僕は本当のことを言った。
「そうなんですか!? 真面目そうな人だとは思ったんですけど、初めてなんですか?」
「はい、初めてです。今日は先輩のお供で・・」
「そうなんですか・・。私、この仕事初めて3ヶ月なんですけど、初めてです。こんなに素敵な人に出会ったのは。」
「え!・・」
お世辞だろうか。
僕が素敵なわけない。
きっとお世辞だ。社交辞令に違いない。
「お上手ですね。」
彼女は少しムッとしてこう言った。
「・・ もう、本当にそう思ったんです。」
この瞬間、僕は体中が火照り、顔がみるみるうちに赤くなっていくのが自分でもわかった。
「あぁっ、もしかして・・照れてます?」
僕は言葉が出なかったので、ただ頷いた。
「ふふふっ、かわいい」
「えっ・・・」
やさしく笑う彼女を目の前に、僕はますます体中が熱くなっていった。