思い出せない
思い出せない。どこかで会ったことがあるような気がするのに、どこで会ったのか、誰なのか全く思い出せない。
その時、彼女の口から驚くべき言葉が出た。
「あの・・どこかで会ったことありましたっけ?」
僕は驚いた。彼女も同じことを考えていたのだ。
「あっ、僕もあなたとどこかで会ったことがあるような気がしてたんです。」
「本当ですか!? ・・でも、ごめんなさい。思い出せないんです。」
「僕も・・思い出せません。」
僕は必死に過去の記憶を手繰り寄せた。しかし、彼女の記憶はどうしても出てこない。
思い過ごしなのだろうか・・
「気のせいなのかな。でも私、あなたと話してるとなんだか懐かしい気持ちになるんです。」
驚いた。彼女は僕と同じことを考えている。
「本当ですか!?・・僕もです。」
彼女と目が合い、再び沈黙が訪れた。
心臓の鼓動が徐々に速くなり始めた。
そう言えば、さっきまであんなに緊張していたのに、彼女と話している瞬間は信じられないほど、落ち着いていることができた。初対面の女性と話しているとは思えないほど自然体でいられた。
沈黙を破ったのは彼女の一言だった。
「あの、お仕事何されてるんですか?」
「あ、飲料メーカーの営業です。」
「へぇ~なんか、かっこいい。確かに営業マンっぽいですね。営業って具体的にどういう仕事なんですか?」
瞳を輝かせ、興味津々な様子で見つめる彼女を前に、僕は仕事の話を力説していた。
「あっ、すみません。自分の話ばかりして。」
「いいえ、なんかすっごく真面目な方なんだなって思いました。 あの、、お幾つなんですか?」
「29です。」
「そうなんですか、もっと若いのかなって思いました。」
「そうですか?・・ お幾つですか?」
「二十歳です。」
「あぁ、若い。じゃあ、だいぶ離れてるんですね。」
「はい。ああっ 今日、そうだ。12時過ぎてるから、もう21歳です。誕生日なんです。今日。」