一人じゃない
「私が...彼のことを本気で...。違うよ。まだ、本気で好きになんてなってない。まだ、、」
「サキちゃん。もっと自分の気持ちに正直になってもいいんじゃないかな。」
私は再び目に涙が溢れてきた。
「ミキちゃん、私ね、怖いの。本気で怖いの。」
「怖いって..?」
私は目の前にいるミキちゃんに思いの丈を全てぶつけてしまった。
「私、自分に自信がない。彼が私のことを深く知ったら、離れていってしまうんじゃないか。嫌われちゃうんじゃないかって。。
自信がないの。女としての自信が、んんん、人間としての自信がないの。今まで、どうせ私なんか何やってもダメって思いながら、生きてきたから。
もし、本気で彼を好きになって、それで嫌われたら、深く傷ついてしまう。それが死ぬほど怖いの。好きな人に嫌われるのも、自分が傷つくのも絶対嫌なの。
今なら、まだ間に合う。今なら彼のこと忘れられる。これ以上深く関わらなければ、傷つかなくて済む。だから、、もう忘れたほうがいいの。」
その瞬間、ミキちゃんの手が私の方に伸びた。彼女は指で優しく私の涙を拭い、じっと私の顔を見つめた。
「サキちゃん、ホントバカ。サキちゃんみたいに優しくて、性格がいい人どこにもいないよ。誰もサキちゃんのこと嫌いになんかならないんだから。
それに誰だって自分に自信なんかないよ。好きな人に嫌われるのも、傷つくのもみんな怖いよ。
でも、それを怖がってたら、恋愛なんかできないし、、、傷ついたっていいじゃん。それで、自分が少しでも成長できれば、それでいいじゃん。私、いつもそばにいて、サキちゃんの支えになるから。」
彼女の言葉が、心に響いた。私は今、一人じゃない。
今まで経験したことのない‘恋愛’っていう大きな壁に立ち向かうのはすごく怖いけど、私には力になってくれる友達がいる。
なんだか、勇気が湧いてきた。
「ミキちゃん、ありがとう。私、逃げないで頑張る。」
「うん、頑張ろ。」
「でも、ミキちゃん。これから、私どうすれば、いいかな。」
「その彼は、サキちゃんが逃げ出したことで、たぶん傷ついたと思う。でも、必ずまたお店に来ると思うよ。」
私が佐々木さんを傷つけた...。
確かに、私が彼の立場だったらって考えると、、、
私とてもひどいことしちゃった。
「私、やっぱり電話して、謝った方がいいかな。」
「んん、、サキちゃん、次彼がお店に来るまで、待った方がいいと思う。彼がどれだけサキちゃんのこと想ってるか、それもすごく大事だと思うの。
サキちゃんにバーで逃げられて、それでも彼がサキちゃんのことを想って、会いに来るってことがすごく重要な気がする。」
「また、来てくれるかな、、」
「来る。彼もたぶん、サキちゃんのこと、好きだと思う。」
「え! うそ!? どうしてそんなこと分かるの?」
「サキちゃんの話聞いてると、なんとなくそんな気がする。もし、彼がまた来てくれたら、逃げ出した本当の理由を彼に話してもいいんじゃないかな。」
「え! でも、そんなこと話せないよ」
「大丈夫。話せば彼も納得してくれて、いい方向に向かうと思うよ。」
「んん、、そっか。。分かった。もし、来てくれたら、そうする。」
今日、ミキちゃんに相談して本当によかった。
心の奥底から勇気が湧いてきて、前向きに頑張ろうって気持ちになれた。私には応援してくれる友達がいる。今までの後ろ向きな自分に別れを告げて、逃げずに正面からぶつかってみようと思う。