恐怖心
信じられない
カウンターの奥に座っているのは、間違いなく佐々木さんだった。
一瞬にして頭の中が真っ白になった。
うそっ!! どうしよう!!
私....どうすれば..
.....
怖い、
....
とっても・・怖い。
マスターがマティーニを差し出した瞬間、私の恐怖心は限界に達した。
彼から目を背けた私は、お定を済ませ、逃げるように店を後にした。
無我夢中で駅まで走り、そのまま帰宅した。私の走って逃げる姿は傍からみたら、まるで、強姦された直後の少女のようだったに違いない。それくらい、私は本気で怯えていた。
家に着くなり、布団に潜り込み、ただただ泣いた。
怖かった。
本当に怖かった。
布団を握りしめた手は、小刻みに震え、顔の下半分は流した涙でびしょびしょに濡れていた。
私は、涙を流しながら、自分自身と必死に向き合った。
私は今まで恋愛をしたことがない。男性に心を開いたことが本当に一度もない。
だから、怖かった...
接し方も分からないし、男っていう生き物を知らないから、、、、、.......
いや、違う。
そんなのは都合のいい言い訳。
本当は..
本当は..嫌われるのが怖かった。
これ以上、彼と仲良くなって、彼が私のことを深く知って、嫌われるのが...
死ぬほど怖かった。
私は、普通の女の子とは違うし、それに風俗で働いている。
いつも沢山の男性を相手にしている汚い女なんて、絶対に受け入れてくれるはずない。
そう思ったら、なんだか無性に怖くなった。
これ以上、彼と接するのが....
好きになるのが、怖かった。
やっぱり、私には無理。
人を好きになんてなれない。
人を好きになれるほど、自分に自信もないし、っていうか、こんな自分が大嫌い。
自分のことも満足に好きになれないのに人を好きになんてなれるはずがない。
やっぱり、もう忘れよう。
私は涙で濡れた目を指でそっと拭い、静かに目を閉じた。