あの海との出会い
私にとって真鶴の海は特別な場所。
なぜなら、あそこの海は夢の場所にとてもよく似ているから。
物心ついたときから毎日見ているその夢は本当に不思議な夢。
私は隣にいる少年と話をしている。
話の内容は・・ 信じられないけど、告白。
しかも、私から少年に。
私は恥ずかしくて、隣の少年の顔をまともに見ることができない。
たまに顔を上げると眩しい夕日に照らされたキラキラと輝く海が視界に入る。
その海の景色と真鶴の海は同じ場所と思えるくらいそっくり。
私が初めて真鶴の海に出会ったのは小学校2年生の時。
週末に両親と3人で熱海に旅行に出かけた時だった。
実家の大船から、普通列車で熱海に向かった。
今でもその時のことをはっきりと覚えている。
小田原を過ぎたあたりから、何とも言えない不思議な感覚に襲われた。
うまく説明できないけど、んんん、懐かしいような、嬉しいような、そんな不思議な感覚だった。
なんだか温かい気持ちになって、自然に涙が溢れて来た。
根府川駅を過ぎたあたりで、急にドキドキ、そわそわし始めた。緊張感のような、期待感のような変な気持ち。
でも、それがなぜだかは全く分からなかった。
列車が真鶴に到着する直前、私は吸い寄せられるように海を見た。
その瞬間、夢で毎日見ている海と、目の前の海がピッタリと重なった。
この海は・・ 夢で見た海。
涙を拭うことも忘れ、無我夢中で海を見つめていた。
これが、真鶴の海との出会いだった。
それから、ちょくちょく、お金が貯まると1人でこの海に行くようになり、
誕生日には必ず、ここに訪れるようになっていた。
銀座を出てから2時間、電車が真鶴に到着した。
ホームへ足を踏み出した瞬間、懐かしい海の香りに、胸が熱くなって、目が潤んだ。
そのまま、吸い寄せられるように、海に向かって歩き出した。
いつも、不思議に思う。
なぜ毎日、この海を夢に見るのだろう。
そして、夢に出てくる少年は一体誰なの?
あの少年とは夢でしか会えないの?
いつの間にか、目の前には夢の海が広がっていた。
きれい。
私は時間を忘れて、一心不乱にその海の景色、空気、温度、音、匂い、すべてを楽しんだ。
あっという間に時間が過ぎ、太陽が沈み始めた。
この夕日に染めれられた景色こそが、夢で見るのと全く同じ光景。
きれい。本当にきれい。
日が落ちるまで、涙を流しながら、海を眺めていた。
なぜ泣いてしまうのか、分からないけど。
あっ、もうこんな時間。帰らなきゃ。
いつの間に、風が強くなっていた。
乱れる髪を押さえながら、小走りで駅に向かった。
駅についたと同時に、ちょうど上り列車が到着し、すかさず乗り込んだ。
電車の窓から、夜の闇を眺めながら、心の中で叫んだ。
会いたい。
また、あの人に会いたい。
また、来てください。