来ない
ミキちゃんの厳しい目に恐怖を感じた。これから彼女の言おうとしていることに大体予想がついていたからだ。
「サキちゃん。私たちはソープ嬢。沢山のお客さんの相手をしてるんだよ。彼はそのことを知ってるわけでしょ? それを広い心で受け入れてくれる人じゃないと無理だよ。ていうか、そんなもの分かりのいい人いるわけないよ。相手がサキちゃんのことを好きになってくれたとしても、サキちゃんが風俗嬢だって事実は一生2人を苦しめ続けると思う。」
「・・ 」
彼女の言葉で、一気に現実に引き戻された。
確かに、私はソープ嬢。仕事とはいえ、沢山の男性の相手をしている女を本気で好きになってくれる人なんているわけない。
彼女の言う通り、お客に恋なんてしちゃいけないんだ。
私、バカみたい。何であの人のこと、あんなに考えちゃったんだろ・・
ミキちゃんは急に微笑んだ。
「ふふっ、やっぱり。 」
「・・・ 何?」
「サキちゃん。やっぱり恋しちゃったんだね。」
「え! やだ。。なんで?」
「私が今、やめた方がいいって言ったら、すっごく落ち込んだから。 サキちゃんは本気なんだと思うよ。 気にしないで。さっき言ったことは一般論だから。私、人を好きになるのに、風俗嬢だとかお客だとか、関係ないと思う。」
「。。! 待って。私別に。好きだなんて一言も・・」
「今日のサキちゃん。いつもと全然違うんだもん。いつもすっごく冷静なのに、今日はまるで恋してる中学生みたいだよ。でも、なんかイキイキしてる。」
「・・・ そうかな。。」
私はミキちゃん言う“恋してる”という言葉と今の自分の感情を重ね合わせた。
私が・・ 恋・・
うそ! そんなことあるわけない。
「サキちゃん。落ち着いて聞いてね。そのお客さんがもし、もう一度サキちゃん指名で、お店に来たら、十分チャンスはあると思う。でも、もし来なかったらもう諦めた方がいいと思う。」
「もう一度・・ 彼が・・」
来るはずない。私は確信できた。出会った瞬間に分かった。彼はすごく真面目で誠実な人。今日来たのはただ先輩に誘われただけ。もう一度私を指名しに来るなんてあり得ない。
「ミキちゃん。私、彼のこともう忘れる。いい人だったけど、私別に好きとかそういう風には思ってないよ・・」
次の瞬間、彼女が発した言葉を聴いて、私はとても驚いた。
「来るよ。その人、必ずまたサキちゃんを指名しに来る。」
「えぇ!!! ・・ 何でそんなこと分かるの?」
「その人も、サキちゃんとどこかで会ったことがある気がするって言ってたんだよね? 」
「・・うん。」
「話聴いただけだから、詳しいことは分からないけど、その人はサキちゃんに何か特別なものを感じてると思う。サキちゃんみたいな可愛い娘相手に、プレイしないっておかしいし、、、なんていうか絶対サキちゃんのこと気になってる思う。」
「絶対彼はもう来ないよ。」
「絶対来る。私、この世界で3年も働いてるんだよ。サキちゃんはまだ1年でしかも、週1だけど、私は週5だよ。いろんな人を見てきた。この仕事長くしてると、外見じゃなくて、中身が・・心が見えてくるようになるの。サキちゃんも分かるでしょ?。言葉を交わすとその人がどんな人なのか手に取るように分かる。その人は必ずまた来る。」
私は彼女の言葉を心の中で必死に否定した。微かな期待を抱けば、後で傷つくことになるから。
「お客さま、ラストオーダーになります。」
居酒屋の店員の一言が、この話に終止符を打った。
「サキちゃん、何かたのむ? 」
「大丈夫。」
私は信じない。絶対彼は来ない。彼がもう一度来るイメージがどうしても湧かない。
来ない。絶対来ない。 そう自分に言い聞かせた。




