出会い
僕はゆっくりと深呼吸をして、覚悟を決めて立ち上がった。
待合室を出て、店員に誘導されながら通路を進むとドレスを着た美しい女性が立っていた。
僕の心臓はもう破裂寸前だった。
「お待たせ致しました。サキさんです。ごゆっくりどうぞ。」
僕は緊張で目の前の女性の顔を見ることができなかった。
「こんばんは。」
女性は明るい声で僕に挨拶をした。
彼女の発した声を聞いて、僕は驚いた。
どこかで聞き覚えのあるような声だった。
綺麗で澄みきった音の響き、やさしさと力強さが入り混じったような発声の仕方。
僕はなんだか、懐かしさを感じた。
「どうも、こんばんは。」
挨拶を返しながら、彼女の顔を恐る恐る見た。
その瞬間、時が止まった。
まるで、電流でも流れたかのように身体が痺れ、手足が震えた。
セミロングの髪に、少し細い目、透き通るような素肌、やさしい笑顔。
とてもきれいな人だと思ったが、それ以上に何か特別なものを感じた。
初めて会ったのに、何度も会ったことがあるような、そんな不思議な感じがしたのだ。
彼女と目が合ったまま、数秒の沈黙が訪れた。
本当に時が止まってしまったかのように、
お互い目が合った状態で、しばらく立ちつくしていた。
ゴーン、ゴーン、ゴーン
沈黙を破るかのように、廊下の壁にかけてある時計から急に鐘の音が鳴った。
なぜ、ソープにこんな古い時計が置いてあるのかと疑問に思うほど、年季の入った時計だった。
針に目をやると、時間はちょうど0時00分を指していた。
これが彼女との運命の出会い。
今まで女性を好きになったことが一度もない僕が、これから、急速に彼女に惹かれ、自分を抑えることができないくらい猛烈にこの人を好きになっていく。
29年分の人を愛する気持ちを、この人にすべて捧げることになることになろうとは
この時はまだ、予想だにしていなかった。




