友達
「サキちゃん お待たせ。行こう。」
「うん。」
5月7日
仕事が終わり、職場の同僚のミキちゃんと居酒屋に入った。職場の同僚と言ったら、変な言い方になってしまうかもしれない。
職場というのは、風俗。それもソープランドだ。
私とミキちゃんはそこで働いている。
私は彼女をミキちゃんと呼び、彼女は私をサキちゃんと呼んでいる。この呼び名は、店での源氏名で私たちの本名ではない。でも、お互いこれでいいのだ。
彼女にだけはなぜか何でも話せる。
ここで働き始めるまで、親友と呼べる人に出会ったことがなかった。
間違いなく、彼女が初めての親友だ。もちろん、彼女の方は私をどう思っているか分からないけれど。
彼女と分かり合えるのは、おそらく彼女も私と同じように心に深い傷を負っているからだと思う。
「サキちゃん、お誕生日おめでとう」
「ありがと、ミキちゃん」
「「かんぱ~い」」
「21歳か~ いいなぁ~ 若くて」
「何言ってんの~ ミキちゃんまだ22なんだから、そんなに変わんないじゃん」
「そんなことないよ。1年の違いって結構大きいんだから。」
彼女と出会うまで、こんな風に誕生日を祝ってくれる友達なんて、私にはいなかった。
「ねぇ、サキちゃん聞いてよ。今日の最後のお客さんすっごく乱暴でさ。もうホント嫌だった。そうそう。そのお客さん、後輩と一緒に来たって言ってたけど、最後私たち2人だったから、後輩の人、サキちゃんの方についたよね? 大丈夫だった。」
「え! 最後のお客さん。んん 大丈夫。いい人だったよ。」
最後のお客さん・・
あの人は一体誰なんだろう。
とっても優しくて、初対面とは思えないくらい、なんだか懐かしくて一緒に居て楽しかったし、安心できた。
私、あの人に会ってから、ずっとあの人のことが頭から離れない。
もう二度と会うことなんてないのに。
「サキちゃん 大丈夫? 何かあった?」
「・・・・・。ねぇ、ミキちゃん。今までお客さんを好きになったことってある?」
「ええ! お客さん? んんん・・ いい人だなって思ったことはあるけど、好きにはならないかな、だって仕事だって割り切ってるから。」
「そっか。そうだよね。」
あっ、私、なんてこと聞いちゃったんだろ。
「サキちゃん、もしかしてお客さんのこと好きになったの?」
「え! ・・・」
やだ。どうしよう。 好き・・って 私があの人を?
「そうなんだ。ふ~ん いつもクールなサキちゃんが恋かぁ~ 」
「ちょっと待って。違うって。」
「どんな人なの?」
「違うってば 」
「今日のサキちゃん、ずっとぼーっとしてるよ」
「え、そうかな・・」
私は決めた。ミキちゃんに話そうって。
「私、ミキちゃんのこと友達だと思ってる。」
「ちょっと~ 当たり前じゃん」
「うん。ちょっと相談に乗ってくれないかな? 今まで誰にも話したことないの。」
「え! うん・・」
「結構重い話だけど、みきちゃんにだけは聞いてほしいの。」
「・・ そんなこと言ってくれて、嬉しいじゃん。 何でも聞くよ」
「長くなるけど、いい?」
「うん。朝まで付き合うよ」
「ありがとう」




