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泡姫  作者: ネンブツダイ
第1章
25/44

アドレス


できない




自分から彼女にメールや電話をするなんて、絶対にできない。




時計の針は12時15分を指していた。




店を出た僕は、吸い寄せられるように近くのバーに入った。





「いらっしゃいませ」




「すみません、ここ何時までやってますか?」




「うち、朝の5時までやってますよ」




「そうですか、分かりました。」




髭面でいかにも荒らそうな60代くらいのマスターは、見かけによらず物腰が柔らかく、丁寧な態度と言葉遣いでもてなしてくれた。




カウンターしかない狭い店内だったが、客は僕しかおらず、静まりかえっていた。




僕はカウンターの一番奥に腰掛け、メニュー表を手に取った。




「すみません、マッカラン、ダブルで。」




「かしこまりました。」




僕はグラスのウイスキーを一気に飲み干し、おかわりを頼んだ。




次のグラスも一気に飲み干し、また次の酒を頼んだ。




先程彼女からもらった名刺を財布から取り出し、眺めていると、信じられないことに気付いた。




それは、彼女のメールアドレスだった。





sakura-s0507i-love-kei@docomo.ne.jp





サクラ―S 0507 I love kei





なんだ!! これは




サクラというのは、彼女の本名か!?




0507は誕生日だ。




I love kei 




ケイというのは誰だ!?




彼氏だろうか! 好きなタレント? ペット?




いずれにしても僕と同じ名前だ。




偶然過ぎる。




彼女は・・サキさんは一体何者なんだ!?




僕はグラスの酒を飲み干し、携帯を取り出した。




そして、彼女の電話番号をゆっくりとダイヤルした。




不思議だった。一人でバーに入ったことなど、今まで一度もなかった。




それに、酒があまり強くない僕はウイスキーなど絶対飲まない。




バーの不思議な雰囲気とマスターの人柄、ウイスキーのアルコール。それらが絶対に普段の僕ではできない、女性に電話をかけるという行為を可能にしてしまったのだろうか。




桜が天国で操っているのではないかと思ってしまうほど、自分のやっている行為が信じられなかった。





プルルルルルル プルルルルル





「はい。」




電話の向こうから聞こえてきた声は、サキさんに間違いなかった。




優しさと力強さを混ぜ合わせたような、なんとなく懐かしい声。





ええっ!!




何をしてるんだ、僕は。




電話をかけてる。




こんな遅い時間に、相手のことも考えず、電話なんてしてしまった。




何を話せばいいんだ。





「もしもし・・ もしもし・・」





まずい。何か話さなければ。





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