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泡姫  作者: ネンブツダイ
第1章
24/44

連絡ください



「やだ、私ったら、もう残り10分しかない。ホントごめんなさい。せっかく来てくれたのに」




「いえいえ、とても楽しかった。」




「そんなことあるわけないです。私、ただ泣いてただけなのに」






彼女は自分の財布から、お札を取り出した。




「今日、私、最初席外しちゃったし、その後もずっと泣いてただけでした。こんなんでお金払ってもらうわけにはいきません。」




彼女は1万円札を4枚取り出し、僕に手渡した。




「これは受け取れません。」




「でも、私・・」




「一緒に居て、時間を共有できただけで、お金以上の価値がありました」




「なんで、なんで、、そんなに優しいんですか?」




「優しくないですよ。本当にそう思ったから・・」




「私、、あなたにもっと早く出会いたかったです。。」





彼女の言葉は本心なのだろうか。




僕も同じことを思っていた。




彼女とだったら、きっと恋愛ができたに違いない。




初めてだ、人を好きになったのは。




いや、これから恋愛をすればいいじゃないか。彼女がソープ嬢であれ、そんなことは全く関係ない。




妹との約束は果たせなくても、彼女は妹に限りなく似ている。




この人を愛さなければ、僕は本当に一生人を愛すことはないだろう。








「あっ そうだ。ちょっと待っててください。」




彼女はペンを取り出し、名刺に何かを記し始めた。




「あの、これ」




彼女が名刺の裏に書いたのは番号とアドレスだった。




「あの・・・もし、迷惑でなかったら、連絡ください。私こんな気持ちになったの初めてなんです。」





「・・・」





僕は何と答えて良いか分からず、ただ彼女に軽くお辞儀をした。





こんな気持ちになったのが初めて・・・ってどういうことだろう。







部屋の電話が鳴り、彼女は受話器を取った。




「はい。・・・わかりました。」  「時間になっちゃいました。行きましょっか。」




部屋を出て、階段を降りた。





「ありがとうございました。」





店員の明るい声が響いた。




僕はこの時、あることを思い出した。




そうだ。手帳。返してなかった。彼女の涙でそのことをすっかり忘れていた。




僕は急いでバックから手帳を取り出し、彼女に手渡した。





「あっ、これ 落としましたよね」




「ええっ!! どうして、これを!?」




彼女はとても驚いていた。




店員に見られているので、これ以上話をすることができず、僕は一礼して、彼女とお別れした。




結局、彼女がなぜ真鶴にいたのかを訊くことはできなかったし、僕が手帳を拾ったことも説明できなかった。




僕が手帳を持っているなんて、彼女は絶対不思議に思うだろう。




ストーカーだと思われたらどうしよう。




彼女が書いてくれたアドレスにメールをしても良いのだろうか。




今日のこと自体、すべて営業なのだろうか。




いや、そんなはずはない。




でも、連絡なんてできない。




女性にこちらからメールや電話をしたことはプライベートでは一度もない。




どうすればいいんだ。













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