リストカット
「手首切る女なんて・・・嫌ですよね?」
彼女は悲しそうな声でそう言った。
僕はそっと彼女の手を取り、傷跡をやさしく撫でた。
「いいえ、手首を切る人は・・とても、その・・好きですよ」
彼女は驚いた表情で僕を見つめた。
「どうして!! ですか?」
「なんか、気持ちが分かるからです。きっと死ぬほど辛かったんですね。」
僕は自分の手首を彼女に見せた。
「実は・・僕も何度か切ったことがあるんです。」
彼女は唖然としていた。
「理由は人それぞれ違うと思いますが、きっとあなたは・・サキさんは、優しすぎるんじゃないかな。。」
彼女の目からとめどなく涙が溢れだした。そのまま、彼女は僕に寄り添い、僕はそっと彼女を抱きしめた。
妹が死んでから、僕は普通ではなくなった。
妹との約束を果たさなければいけない。でも、それは絶対に不可能なこと。
思春期に周りの人間が、人を好きになってなっていく中で、僕はただ一人取り残されていった。
人を好きになれない。好きになっちゃいけない。でも、このまま一生一人でいるのは辛い。
その狭間で苦しむ中で、何度かリストカットを繰り返した。
彼女がどんな理由で手首を切ったかは分からないが、彼女も深く傷つき、苦しんだことだろう。
そう思うと、涙を流す彼女が愛おしくてたまらなかった。
彼女を抱きしめていると、まるで妹と一緒にいるような錯覚に陥った。
懐かしい。
彼女は桜なのではないかと思ってしまうほど、面影も雰囲気も、声も話し方もとてもよく似ていた。
まるで、あれから20年後の桜に出会ったかのようだ。
どれくらいの間、彼女は僕の懐で泣いていただろう。もはや、時間の感覚は分からなくなっていが、かなり長い時間、彼女を抱きしめていたと思う。
彼女は鼻をすすりながら、口を開いた。
「ありがとう・・本当にありがとう。今までそんな風に言ってくれる人、いなかったです。」
僕はさらに強く彼女を抱きしめた。
「大丈夫。人間いくらでもやり直しはききます」
・・・
・・・
・・・
「私ったら、本当はもっと楽しく話がしたかったのに、泣いてちゃダメですよね」
彼女は涙を拭いながら、笑顔を見せた。
「・・やっと笑ってくれた」
「え・・」
「やっぱり、笑ってるところが一番可愛いですよ。」
「ふふふ、うれしい ありがとうございます」
ピピピピピッ ピピピピピッ
突然、アラームが鳴った。




