再会
「いらっしゃいませ」
男性店員が明るい声で出迎えてくれた。
「あ・・予約した佐々木です。」
「佐々木様、お待ちしておりました。サキさん指名で60分でよろしいですね。」
「はい」
「ありがとうございます。それでは前金で3万5千円頂戴致します。」
・・・・
「はい、ちょうど頂戴致します。それではあちらの待合室でお待ちください。」
待合室には客は誰もおらず、僕一人だった。
1週間前のことを思い出した。
あの時もかなり緊張したが、今日の緊張はあの時は全く違う。何と言えば良いのだろう。
胸が締め付けられるような、何だか怖いような変な気持ちだった。でも決して、嫌な気持ちではない。
今までの人生でこんな気持ちになったのはこれが初めてだ。
僕は待合室のテレビのボリュームを落とし、大きく深呼吸をした。
落ち着け。今日は彼女に手帳を返しに来た。それだけだ。
でも、なんでこんなに緊張するんだ。
怖い。何が怖いんだろう。わからない。
待合室に入って10分ほど経った頃、店員が現れた。
「お待たせ致しました。どうぞ。」
僕は覚悟を決め、立ち上がった。
店員に誘導され、通路を進むとピンク色のドレスを着た女性が立っていた。
サキさんだ。
歩みを進めるごとに、彼女の顔が近くなっていく。
肩ぐらいまであるしなやかなの髪、細くてやさしそうな目、透き通るような素肌。
紛れもなく、彼女だ。
この一週間、会いたくて会いたくてどうしようもなかった女性が真の前にいるという事実に、僕は吐き気を催すほどの緊張に襲われた。
心臓はドラムを高速で叩いたように躍動し、頭の中は掃除機ですべてを吸い込んだように空っぽになった。
目が合った瞬間、彼女は目を丸くし、口を小さく開けたまま呆然としていた。
「サキさんです。ごゆっくりどうぞ」
店員が立ち去った後も、彼女は驚いた表情のまま身動き一つとらなかった。
どちらも言葉を発することができないまま、ただ立ち尽くしているだけだった。
僕は思い切って声をかけた。
「こんばんは」
しかし、彼女は全くその言葉すら耳に入らないようだった。
お祈りでもするかのようにきつく握りしめた両手を胸にあてた状態で、明らかに肩で息をしていた。
それはまるで僕と同じように緊張しているかのようだった。