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泡姫  作者: ネンブツダイ
第1章
20/44

いよいよ

「桜、はい。おみやげ」




「ありがとう お父さん。」




父が桜に手渡したのはクッキーだった。




ジュエリーショップのエリアマネージャーだった父は週に2回ほど銀座に足を運んでいた。




その時は必ず、KID-Gという店のクッキーをおみやげに買ってきていたのだ。




桜はそのクッキーが大好きだった。




「ねぇ、お父さん、見て。今日、絵描いたんだ。」




「どれどれ んんんっ 上手だな とてもおいしそうだ。」




桜が画用紙に描いたのは、家にあったバナナとりんごの絵だ。




「桜は本当に絵が上手だな。 なぁ 圭。」





・・・・・



・・・・・





ピピピピピピピッ  ピピピピピピピッ




目覚ましの音で目が覚めた。




朝だ。




夢か。




夢!?




初めてだった。 妹の夢で浜辺の告白以外の夢を見たのは。




僕の中で何かが変わっていた。




昨日、真鶴の海でソープ嬢のサキさんに会ったことが、一晩経った今も信じられない。




あれは本当に彼女なのか。あと5日、あと5日で彼女に会える。





それから、5日間、僕は仕事中も、家に居ても彼女のことばかり考えていた。




きっとこれが、加藤さんの言っていた人を好きになる感情なのだろうか。




初めてだ。女性のことをここまで考えたのは。







それから、5日後




5月13日




今日はいよいよ、彼女が出勤する日だ。




昼休み、僕は店に予約の電話を入れた。





「お電話ありがとうございます。ROSE PEARLでございます。」




「すみません、予約お願いします。」




「はい、女の子のご指名はございますか。」




「・・・  サキさんでお願いします。」





「はい、サキさんで。お名前をお伺いしてもよろしいですか。」





「佐々木と言います。」




・・・・




・・・・





今日、夜11時に予約を入れた。




この1週間、彼女のことばかり考えていたのに、いざ会うとなると不安でいっぱいになってしまう。




ネガティブなことばかり考えてしまう。




僕がいくら会いたくても、彼女にとって僕はただの客だ。




僕が手帳を持ってるってなんて、なんかストーカーみたいじゃないか。




いや、偶然拾っただけだ。ただ、それを返しに行くだけだ。




一度会っただけで、好きになるなんて、向こうからしたら気持ち悪いよな。




いいんだ。ただ返しに行くだけなんだから。





落ち着け。落ち着くんだ。





僕は29年間、恋愛経験が全くない。それゆえ、好きになった人に会いに行くというだけで、




もうおかしくなりそうなぐらいの精神状態だった。





夜8時




仕事が終わり、一旦家に帰った。




そして、シャワーを浴び身だしなみを整え、手帳を確認した。




これを渡すんだ。




・・・・




そうだ。




僕はこの手帳の名刺が挟んであったカレンダーのページしか見ていない。




手帳を拾った日、5月7日の欄に「誕生日」と書いてあったのを確認しただけだ。




他のページにどんなことが書いてあるんだろう・・





ダメだ。




これじゃ、ストーカーじゃないか。




でも、見たい。




少しだけ。。





僕は日付ごとになっているページの5月7日のところを開いた。





そこには、「キセキ ♡」と記されていた。




これは! 何だろう・・




5月7日、彼女に何が起こったんだろう。




わからない。でも、訊くわけにもいかないし。




・・・・・




そろそろ、行くか。




僕は電車に乗り、新宿に向かった。




金曜の夜の新宿は、普通に歩くことが困難なほど人が多かったが、何とか人混みをかき分け、店を目指して突き進んだ。




駅から10分ほど歩き、ようやく店に到着した。




緊張する。いよいよ会えるんだ。




あれから、1週間しか経っていないのか。




何だか信じられなかった。




もう何ヶ月も前のことのようだ。




この1週間で僕は大きく変わってしまった。




生まれて初めて人を好きになって、ようやくわかった。




恋をするということは、こんなにも楽しくて、こんなにも苦しいということを。




ヨーロッパの神殿のような豪華できらびやかな、ROSE PEARLの佇まいを眺めていると、




心臓の鼓動は、さらに激しさを増した。




この店の中に、彼女がいる。




そう考えただけで、倒れそうになるくらい緊張した。





よしっ 行こう。







「いらっしゃいませ」




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