浜辺の女
目を開けると、辺りはすっかり薄暗くなっていた。浜辺に敷いたビニールシートは風になびき、ばさばさと音を立てていた。
妹のことを回想しながら、僕は眠りについてしまったようだ。
そろそろ、帰るか。
そう思い、立ち上がろうとした瞬間、
水平線に沈もうとしている夕日のおぼろげな光の中に、一人の女性の姿が浮かび上がった。
僕が座っている場所から、30メートルくらい離れたところに、その女性は1人でたたずんでいた。
暗かったので、はっきりと顔は確認できなかったが、すらっとした体型で、きれいな人だった。
髪は肩ぐらいまであっただろうか。
どうして、こんな時間に、こんな場所で、女性が一人たたずんでいるんだろう。
僕は不思議に思い、彼女のことを見ていた。
よく見ると、片手にバッグと箱を持っている。
その箱は、今僕の手元にある、銀座で買ったクッキーを同じ箱だ。
偶然ってあるもんだな・・ あの店のクッキーの箱を持ってるなんて。
それから、間もなくして彼女は立ち去った。
彼女のことが気になり、後ろ姿を見ていたが、なんだか見覚えがあるような気がした。
学生時代の同級生かな・・? いや、もっと最近に会ったことがあるような・・
銀座のあの店の箱を持ってたってことは・・この辺りの人間じゃない。
立ち去る彼女の後姿は、やはりどこかで見覚えがある。
突然、強い風が吹いた。
その瞬間、何やら白いものが彼女のバッグから落ちた。
彼女は気付いていないようだ。
僕は急いで、荷物をまとめ、走り出した。
しかし、彼女の姿はもう既になかった。
彼女が落としたのは手帳だった。
走って駅に向かったが、ちょうど、東京方面の電車が発車したところで、駅のホームにはそれらしい人は見当たらない。
おそらく、電車に乗ってしまったんだろう。
交番に届けるか・・
そう思い、手帳を見ると、
名刺のようなものが挟まっていた。
それを見て、僕は目を疑った。
これは・・・
その名刺には
ROSE PEARL サキ
と記されていた。
浜辺にいた女性は、なんと、昨日先輩と行ったソープランドで僕の相手をしたソープ嬢のサキさんだ。