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泡姫  作者: ネンブツダイ
第1章
17/44

手紙

妹が亡くなってから、母も父も、僕も抜け殻のようになってしまった。




妹の死から1週間経ったある日、あることを思い出した。




桜が死ぬ間際に言っていた言葉だ。





「私の机の2番目の引き出し・・」




そうだ。確かに桜はそう言っていた。




僕は妹の部屋のドアを開けた。桜が死んでから、僕はもちろん、母も父も彼女の部屋に決して入ろうとしなかった。




彼女の部屋は、きちんと整理整頓されていて、妹の几帳面な性格がそのまま表れていた。




あのときのまんまだ。桜が生きていたあの時の。




彼女がこの世を去ったことが信じられない。




「圭くん。勝手に入らないでよ。何してんの?」




この部屋にいると、今にも妹がこんな風に語りかけてきそうな気がした。




桜、どうして死んだんだ。どうして。




目に浮かんだ分厚い涙の膜に映し出されたのは、桜のやさしい笑顔だった。




涙を拭った自分の小指はとても温かくて、まるで、桜と指切りをしているような感覚だった。




僕はそのまま泣き崩れた。




どれくらい泣いていただろう。いくら泣いても、悲しみは一向に消えなかった。




たった一人の妹を亡くした悲しみは、言葉では言い表せないくらい辛いものだった。




いや、妹・・というより、好きな人を亡くした悲しみは・・。






僕は妹の机の、2番目の引き出しを開けた。




そこには1冊のノートがあり、そのノートには3通の封筒が挟まっていて、それぞれに宛名が記されていた。




お母さんへ、お父さんへ、圭くんへ




僕は自分の名前が書かれた封筒を開けた。




中の入っていた手紙を読み終えた時、




流れていた涙が、一瞬にして止まった。




信じられなかった。




妹は自分が死ぬことをわかっていたのか・・




そんなことあるわけない。





どうしてこんな手紙を、一体いつ書いたんだ。。




聡明な妹らしく、とても、しっかりした文章だった。




7歳でこんな手紙を書く妹を本当にすごいと思った。




いや、冷静に考えれば、子供が書けるような手紙じゃない。





これは、恋してる女が、書く手紙・・そう思えてしまうほど、大人っぽい内容だった。










::::::::::::::::::::::





圭くんへ





いつもだらしないぞ。




私のお兄ちゃんでしょ。もっとしっかりしてよね。




お母さんとお父さんの言うことちゃんと聞かなきゃだめだよ。




でも、私にとっては




世界一やさしくて、世界一頼りになる自慢のお兄ちゃんだよ。




いつも、すっごくやさしくしてくれてありがとう。




浜辺での約束覚えてますか?




あの約束、実現させようね。




私がもし死んだら、生まれ変わるから。




他人同士だったら、約束果たせるでしょ。




同じ名前で、1年後に生まれ変わるから・・




必ず私のことつかまえてよね。





また、必ず会おうね。





             桜より





::::::::::::::::::::::







桜・・




また会いたい。また会いたい。また会いたい・・・




この手紙を読んでから20年、僕は女性との恋愛を一切断ち切った。




どんなにきれいで、どんなに性格のいい人に出会っても、恋愛感情を抱くことは絶対になかった。




桜が死んだときから、人を好きになる感情が、消え失せてしまった。




いや、そうじゃない。




きっと20年間、桜だけを本気で愛し続けているから、他の人を好きになれないんだと思う。




彼女以上の人は絶対この世に存在しない。




桜。また会えるって、信じてる。




それまでは、誰のことも好きにならない。




あの浜辺で約束した日から、僕は桜に恋をしてしまったんだ。




永遠に叶うことのない恋かもしれない。




でも、一生かかってでも、叶えてみせる。



















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