表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
泡姫  作者: ネンブツダイ
第1章
16/44

約束

衝撃の告白だった。



桜とは今まで一度も、異性の話などしたことはなかった。

幼いながらも、賢い妹がなぜあの時あんなことを言ったのか、20年経った今も分からない。




全身が硬直し、金縛りのような状態に陥った。




そんな中、桜は容赦なく言葉を続けた。





「圭くんは、私のこと・・好き?」





僕は、一気に咳込んだ。普通に呼吸することができないくらい、動揺していた。

何か答えないと・・ 何か・・。



妹の性格はよく知っている。

冗談でそんなことは絶対言わないし、

何より、彼女の真剣な態度が、その言葉が本心であることを十分過ぎるほど示していた。




僕はゆっくりと深呼吸をし、言葉を発した。




「桜は・・やさしいし、んん、、可愛いし、・・・大切な妹だよ」




「・・好き?」




「えっ!・・・・ もちろん・・好き、だよ」




妹に対して、「好き」と言っている自分が信じられなかった。


今話している女性は本当に桜なのか。

そう疑わざるを得ないほど、現実では考えられない出来事だった。

妹はさらに、言葉を続けた。




「大人になったら、結婚してくれる?」




「!!・・・」




桜は一体何を言ってるんだ。

7歳の幼子とはいえ、それが不可能なことぐらい賢い桜にはわかってるはずだ。

恐る恐る言葉を発した。。




「それは・・無理だよ」





「どうして?」





「どうしてって・・」





「ねぇ、圭くん。どうして結婚できないの?」





「だって・・」




僕はまともに桜の顔を見ることはできなかったが、確実に、彼女は僕の顔をしっかりと見つめていた。




「兄妹だから?」




「!! 」




わかってるのに、なぜ訊くんだ・・




「そうだよ。兄妹は結婚できないだろ。桜、今日大丈夫か? 絶対変だよ」





「圭くん、約束して」




「何・・を?」




「大人になったら、結婚してほしい。法律的に無理でも、一緒に居てほしい。」





一緒に・・って。今日は一体何なんだよ。全部冗談なんだろ? 冗談だって言ってくれ。

僕はこの会話を一刻も早く終わりにしたかった。





「・・・わかった。 ずっと一緒に居よう」





本心ではなかった。とりあえず、早くこの状況を終わらせるために、こう言うしかなかった。

すると、妹は小指を僕の方に差し出した。





「指切りしよ」




「・・・わかった」





ゆ~びき~り げ~んまん うそついたら 



はりせ~んびん の~ます ゆびきった





この日、僕は妹と約束してしまったんだ。

この時の光景が、鮮明に僕の記憶に焼き付き、それから20年もの間、この夢を見続けている。

しかし、この約束は二度と果たされることはない。




指切りをした後、僕たちは家に戻った。

お互い無言で、とても気まずい帰り道だった。

しかし、家に帰ってからは、いつも通りの普通の桜に戻っていた。

さっきは何だったんだろうと思うくらい、何事もなかったかのようにお互い接した。



その後も、一切その話は出ず、いつしか僕は「あれは夢だったんだ」と思うようになっていた。





浜辺での約束から2ヶ月経った5月7日、妹は死んだ。

急な出来事だった。桜は風邪をこじらせ、肺炎にかかった。

もともと身体の弱かった妹は、そのまま帰らぬ人となった。




妹が死ぬ間際、病院のベッドでか細い声でこう言った。




「・・圭くん 私の机の2番目の引き出し・・」




その時、彼女は小指を立てた右手を弱弱しく僕の方に向けた。




僕は黙って、その細く小さな小指に、自分の小指を絡めた。




この瞬間、僕は誓った。




妹のために、あの約束は絶対守るって。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ