好き・・?
先輩と僕は近くの居酒屋に入った。
「どうだ? 童貞喪失した気分は。」
「・・・。」
僕は迷った。先輩にどう話せばいいのだろう。
何もしなかったなんて言ったら、先輩は何て言うだろうか。
でも、正直に話すしかない。
僕は恐る恐る口を開いた。
「あの、加藤さん。」
「ん?」
「実は・・何もしなかったんです。」
「え・・どういうこと?」
「ソープで話だけして、プレイはしませんでした。だから童貞卒業はしてないんです。」
「は? なんで? 」
「すみません。お金はお返しします。どうしても・・できませんでした。」
「いや、金はいいよ。お前には世話になったから。 そっか・・何もしなかったんだ。やっぱ、ソープで初めてってのは嫌だったか?」
「それもあるんですが、その・・僕についた女の娘に何か特別なものを感じたんです。」
「特別なものって・・?」
「なんていうか、初めて会ったような気がしなかったんです。昔からの知り合いのようななんだか不思議な感じがしました。だから、とてもそういう気分にはなれなかったんです。」
「そっか。お前、もしかしてその子に惚れた?」
「えっ!!」
先輩の「惚れた?」という言葉で頭が混乱してしまった。
生まれてこのかた、人を好きになったことはない。だから惚れるってことがどういうことなのか、人を好きになるってことがどういうことなのか、僕には分からなかった。
「どうしたんだよ。まさか、本当に好きになっちゃたの?」
先輩の発した「好き」という言葉を聞いて、心臓がドキドキし始めた。
彼女と過ごした60分間の記憶が猛烈な勢いで脳裏に蘇った。
彼女の笑顔、無邪気な性格、やさしさ。思い出すごとにさらに彼女の姿が美化され、先輩の発した「好き」の2文字と結びついていった。
好き? 僕が彼女のことを・・。分からない。これが好きという感情なのか?
「加藤さん。ちょっと聞きたいんです。人を好きになるとどういう気持ちになるんでしょうか? 僕は人を好きになったことがないから分からないんです。教えてくれませんか。」
「えぇっ! んん・・そうだな。」




