別れ際
キスを終えた後、僕は放心状態になった。
突然の出来事に、頭が混乱し何が何だか分からなくなっていた。
彼女はずっと僕の目を見ていた。
これが夢なのか現実なのか、僕にとってはそれすら分からくなるくらいの出来事だった。
「大丈夫ですか。 大丈夫ですか。」
彼女の声が聞こえ、僕はなんとか正気を取り戻した。
「あ、すみません。 大丈夫です。」
「ごめんなさい、いきなり。」
「いえ、大丈夫です。」
「そろそろ行きましょうか。」
「はい。」
別れ際、彼女はささやくような小さな声でこう言った。
「あの・・また、会えますか?」
どう答えればいいのだろう。僕は返事に困り、考えこんでしまった。
すると彼女は、僕が困っているのを察したのか、すぐ言葉をつけ加えた。
「また、会えるといいですね。」
「・・はい。」
彼女は深々とお辞儀をし、僕もそれに合わせて頭を下げた。
こうして、彼女とお別れした。
この時は、もう二度とここへ来ることもないし、彼女に会うこともないだろうと思った。
しかし、彼女の「また、会えるといいですね。」というこの言葉が僕の耳から離れなかった。
待合室では先輩の加藤さんが待っていた。
「おっ、圭。」
「あ、加藤さん、お待たせしました。」
「どうだった?」
「・・ぇ、まぁ 楽しかったです。」
「そっか、まぁどっか、居酒屋でも入ってゆっくり話そうぜ。」
「はい。」
僕と先輩は店を出た。
先輩と1時間ぶりの再会だったが、まるで2、3日も会っていなかったような感覚だった。
たったの60分だったが、とても長い時間彼女と一緒に過ごしたような気がした。
外に出ると、夜風がとてもさわやかで気持ちがよかった。
夜中の1時を過ぎているというのに、歌舞伎町の街は相も変わらず賑わっていた。
しかし、店に行く前は目障りだった人混みや騒音、ネオンの光が、
今はなんだか心地よくて僕を楽しい気持ちにさせてくれた。
彼女に出会って、まるで世界が変わったような感覚に陥った。
でも、変わったのは世界じゃなくて僕だったんだ。