今まで一度も
あなたは運命を信じますか?
僕は彼女に出会ってから、運命を信じるようになりました。
この人に出会って、生まれて初めて恋をしたんです。
2011年 5月6日
僕は運命の人に出会った。
“お前はバカか”って思われるかもしれないが、あの人は間違いなく運命の人。
運命なんて僕自身、今まで全く信じていなかった。
運命なんてものは人間が造り出した幻想で、絶対に存在などしない。
生まれてから29年間、ずっとそう思ってきた。
しかし、この日彼女に出会ってから僕の考えは一変してしまった。
この出会いはどう考えても、運命と言わざるを得ないからだ。
この日、僕は仕事帰りに会社の先輩と2人で居酒屋で酒を飲んでいた。
「加藤さん、もう帰りましょう。終電無くなっちゃいますよ。」
「もう少し付き合えよ。お前とこうして話せるのも、これで最後なんだから。」
「最後だなんて、大げさですよ。転勤するだけなんだから。」
加藤さんは会社の先輩で、歳は僕の3つ上。
僕の兄貴分みたいな人で、いつも休み前の夜はこうして先輩と2人で酒を飲んでいた。
先月辞令が出て、先輩は地方の営業所に異動することになった。
東京の街で先輩と2人でこんな風に酒を飲むのは本当に今日が最後かもしれない。
仕事の悩みを真剣に相談できたのはこの人だけだった。
これでお別れだと思うとなんだか無性に寂しい気持ちになった。
「わかりました、加藤さん。今日はとことん付き合いますよ。」
「圭、お前・・本当かよ。今、とことん付き合うって言ったな?」
「はい。言いました。今日は朝まで、どこでも付き合いますよ。」
「約束だぞ。お前」
「はい。」
この約束が、僕を運命の人に出会わせてくれるなどとは、この時は考えもしなかった。
「圭、お前さ、彼女いないんだよな?」
急にこんな質問をされ、僕は戸惑いを隠せなかった。
「え・・いないですよ。」
「前から思ってたんだけど、お前結構かっこいいし、性格もいいのになんで彼女いないの?」
「それは・・。」
「どれくらい、いないんだ?」
僕は迷った。正直に言うべきか、嘘をつくべきか。
心から信頼している先輩だから、正直に言おう。
「実は・・生まれてから一度も女性と付き合ったことがないんです。」
「え・・うそだろ!?」
「本当です。」
「信じられないな。今まで誰かに告白したこととかないの?」
「ないです。」
「されたことは?」
「・・あります。でも、すべて断ってきました。」
「なんで?」
「実は、女性を好きになったことがないんです。」
「え、もしかしてお前・・」
先輩の手が頬に移動するのを見て、すかさず返答した。
「ゲイ・・じゃないんです。絶対に。でも、これ以上は・・すみません。話したくないです。」
「そっか・・ わかった。なんか悪かったな。変なこと聞いちまって。」
「いえ、そんなことはないです。僕の方こそすみません。」
「圭、今日はもう帰ろう」
「だって加藤さん、今日は・・」
「本当はな、、この後、お前と風俗でも行こうかなって思ったんだ。たまにはハメ外してもいいんじゃねぇかって思ってさ。」
「風俗・・ですか。」
「いや、今日は帰ろう」
次の瞬間、僕は自分でも分からないが、何かに操られるかのように言葉を発していた。
「い、行きましょう 風俗。」
「なんだ、お前も好きなのか!」
「いえ、その、一回も行ったことないです。」
「え? ホントかよ。大丈夫なのかよ。」
「はい、今日は加藤さんにとことん付き合うって約束ですから。」
なぜ、行くなんて言ってしまったのか。自分でも分からなかった。
僕は今まで女性とSEXをしたことが一度もない。
それどころかキスをしたことも、手をつないだこともない。
いつもなら、いくら約束したと言っても、風俗なんて絶対に断ってた。
しかし、この時は何か目に見えない力で操られているかのように、自分の意志とは裏腹な言葉を発していたのだ。
僕はこの後、運命の人に出会うことになる。
そう、その人は風俗嬢。