憤怒
今日は4の丘だ。
4の丘は4の街の中にある。
この街の人達はいつも喧嘩している。
4の街の人は喧嘩っ早いことで有名で、Ncityで喧嘩を始めるのは、大抵4の街の人だ。
特に1の街の人との相性は悪い。
あぁあそこでも喧嘩している。
オイラが警戒しながら歩いていると、
「なぁボウズ。
お前はなんで靴磨きを始めた」
と探偵が聞いてきた。
なんで靴磨きかって?
あれ……、
なんでだっけ。
オイラはしばらく考える。
孤児院では9歳まで普通の勉強を教わった。
これは引き取り先を見つけやすくする為だった。
引き取る里親にしても、頭の良い子のほうが安上がりだし、良い学校に行かせて、良い職業につける事もできる。
だから皆んな必死で勉強した。
10歳までに引き取り手がなかったらNcity行きだからだ。
とはいえ、皆んなNcityがどんなところか知らなかった。
でも孤児院の先生は
「頑張って里親に好かれるのですよ」
といつも言っていた。
9歳になると、里親の募集はするが、今度はNcityで生き残る為の勉強が主になる。
それは職業訓練だった。
オイラは鍛冶職人の職業訓練を受けた。
鍛冶職人の仕事は嫌いではなかった。なかなか筋もいいぞと褒められた。
これでNcityでも安泰だと思っていた。
でもそれは大きな間違いだった。
Ncityでは、鍛冶職人はほとんど必要とされなかったのだ。
オイラは他の職業訓練を受けてたら良かったのかと調べてみたけど、他の職業訓練もほとんど必要とされなかったのだ。
なんで必要とされている職業の訓練が、孤児院でされていないのか不思議だった。
悪くない職業だけど、Ncityでは不要な職業。
なんで教えるんだって思った。
オイラは数少ない鍛冶職人に話を聞きに言った。
すると
「お前も鍛冶職人の職業訓練受けたのか……、
仕方ねえな、
俺は外から来た奴に、孤児院に行って鍛冶職人はNcityでは不要だから、もう職業訓練はやめろと伝えてくれと言ったんだ。
嘘だと思うなら、こっちまで来いと……、
かれこれ30人くらいに伝言を頼んだが。
まだ職業訓練やめてないのか」
と言っていた。
探偵にはどう答えよう……。
「靴磨きが一番、金なくてもできる職業なんだ」
とオイラは言った。
「そうなのか……。
いろいろ職業は選べるのか?」
探偵はそう質問した。
「そうだね。オイラはまずお金が全然なかったから、まず乞食をした。だいたい孤児院出身者は乞食からはいる」
「ちょっと待て。なにか金とか持たせてもらえないのか?」
と探偵はすごい顔で言った。
なんかオイラが怒られてるみたいな気分がした。
なにを怒っているのだろう。
「このオイラの着ている服も、靴もカバンも全部孤児院からもらったものだ。エンピツも紙ももらった。あと固いパンを3つもらった」
とオイラは言った。
「Ncityの中で、助けてくれる人とかはいなかったのか?生活はできたのか?」
「ここは0.01G以下で生活できるし、税金もない。
職業も自由で盗賊でも乞食でもなんでも自由にできる。
ほら見ての通り、生活してるし、昨日なんかピザとサイダーを探偵さんに食わしてもらった」
オイラがそう言うと、探偵さんは悲しそうに笑った。
そして
「飯行こう」
と言った。
広場には少し行列のできた屋台があった。
「探偵さん、あれは何のお店」
そうオイラが聞くと、
探偵さんは近くまで見に行ってくれた。なんかわからないが今日はこれが食べたい気がする。
「これはな。
ミートソースパスタだ」
と探偵は言った。
ソースはわかるけど、ミートとパスタがわからない。
「ソースってトマトソースみたいなの?」
とオイラは聞いた。
「そうだな。トマトソースに他のソースを混ぜて、あとはひき肉を入れて煮込んだソースだ」
と探偵は言った。
料理に詳しいんだなと思った。
「肉はわかるけど、ひき肉ってひきという動物の肉なの?」
とオイラは質問をした。
「ハハハ。まぁそう思うわな。ひき肉というのは、動物の肉を細切れじゃないな。もっと細かく刻むという、そういう状態にしたもの。
ミンチとか言うんだが、そうだウィンナーあっただろ。あの中の肉もひき肉だ」
なるほどあれがひき肉なんだ。
「じゃあパスタは?」
オイラは質問する。
「パンの材料は小麦なんだけどな。その小麦を細く伸ばして茹でたものがパスタだ。
ほらもうすぐだから、食おう」
と探偵は笑顔で言った。
探偵さんはオイラの分と自分の分のミートソースパスタを買ってきてくれた。
このヒモみたいなのが、パンとおんなじだなんて、このひき肉というのが、ウィンナーの中身とおんなじだなんて、ビックリだった。
もし探偵が教えてくれなかったら、違うものと思っていたと思う。
オイラは恐る恐る一口食べる。
美味い。
ピザのトマトソースとはまた違うけど、色も味も少し似ている。
そしてひき肉も、ウィンナーの味と少し似ていた。
そしてこのパスタの、つるんとした食感と、少しの歯ごたえが、ミートソースと絡んで美味い。
「探偵さん……
これ美味いよ」
とオイラが言うと、
頭をガシガシ撫でられ
「そうか……、
良かったな」
と探偵さんは言った。
……
30分ほど歩いて、
オイラ達は丘守りの住む塔についた。
丘守りは、腕を組んでジロリと睨見つける。
ちょっと怖いな……。
オイラは丘守りに話しかける
「こんにちは。丘守りさん。廃人ゲーマーの事知ってる?」
「なんだボウズ。
廃人ゲーマー?
人を訪ねる時は、
土産のひとつでも持ってくるものだろ」
そう言った。
「丘守りさん。頼む。廃人ゲーマーの事を教えてくれ。礼はする」
そう探偵は言った。
「いくら払う?早く言え」
と丘守りは言った。
「1Gではどうだ」
と探偵が言うと、
「じゃあさっさと出せ」
と丘守りは言った。
丘守りは、金を確認して、こう言った。
「白屋根だ」
「白屋根?それはいったいどういう事だ」
と探偵は尋ねる。
「廃人ゲーマー=白屋根。それは常識だ。エベレスト山が毎年数センチずつ成長しているくらい常識だ」
そう言ったきり、なにも答えなくなった。
青い柱、赤い壁、北、白屋根とはどんな意味なのだろう。
探偵はオイラに言った。
「白屋根に心当たりはないか?」
オイラは首を振った。
探偵の表情は少し曇っていた。
そうしてオイラ達は4の街を出た。