傲慢
ホテルで一晩過ごした。
オイラは風呂に久しぶりに入り、
ふかふかのベッドで寝た。
スッキリした。
お金持ちってすごいなと思った。
今日は1の丘に行くことにする。
1の丘は1の街の中だ。
この街の連中は、自分達が一番だと思いこんでいる。
なんでかって?
1の街に住んでいるから。
それだけだ。
今日は月末だ。今月は誰なんだろう。
(うぇーん。うぇーん。うぇーん)
サイレンの音がした。
「あぁビックリした。あのサイレンは何なんだ?」
と探偵が尋ねてきた。
「探偵さん……、
あれはね。
月末の正午のサイレンさ。
このあと今月の対象者が発表される」
「対象者って何なんだ?」
と探偵は尋ねる。
あっ対象者も知らないのか。
「Ncityの人口って知ってる?」
「いや……、知らない」
「だいたい3万人前後なんだ」
「3万人前後か……、
それがどうした。
特に変わったことはないと思うが……」
と探偵。
「じゃあ5年前と変わってないとしたら?」
オイラは言った。
「人の出入りが激しい?それとも、そこそこ入ってくるが、亡くなる人も多い?」
そう探偵は答えた。
「それもあるけど、少し違う。この街では毎月月末に人口調整が行われるんだ」
そう言うと、探偵の顔が少し曇った。
「人口調整って何なんだ?」
「オイラ達にも知らされてはいない。ただ選ばれた人は、連れて行かれて、この街からいなくなるんだ」
そう言うと、探偵は無口になった。
オイラも始めてこの話を聞いたときは何も言えなかった。
探偵も同じ気持ちなのかなぁ。
「おい……、ちょっと待ってくれ」
広場のほうから大きな声がする。
「だから、ちょっと待ってくれよ。オレは待ち合わせしている人がいるんだ。
せめて最後に合わせてくれ」
二人の大きな男が、抵抗する男をどこかに連れて行った。
「あれが……、
調整か」
探偵はそう言った。
「そう。あれが人口調整」
オイラがそう答えると、探偵は少し寂しそうな目をして、
「今日は何を食う。お前の好きなもの食わしてやる」
そう言った。
なにが食えるのか。
楽しみになってきた。
広場は、先ほどのことなど、忘れたかのように活気があった。
観光客には珍しくても、人口調整はNcityでは当たり前の風景だ。
オイラも3ヶ月くらいで慣れた。
どっちみち、仕事ができなくって、蓄えがなくなったら、生きてはいけない。
ゲームオーバーの理由がひとつ増えたからってどういうこともない。
それに良いことだってある。
このNcityでは、毎月月末の正午にタイマーでランダムに調整される人が決定し、数が調整される。
ランダムだから、調整されるのが、自分の場合もあるけど、ライバルの場合もある。
実際、オイラのライバルだった靴磨きが半年前に調整されて、そこから売り上げが少し伸びた。
少し怖くもあるけど、ある意味、恩恵ともいえる。
まぁ師匠の受け売りだけどな。
それにこの街は常に人口調整されているから、仕事がなくなることはない。
いつも人手不足だから、仕事は常にある。
仕事がない事で飢えてなくなることがないから、ずいぶん幸せだとオイラは思う。
「なぁボウズ、怖くはねぇのか?」
そう探偵は言った。
「怖いけど、人口調整には助けられているから」
そう答えると、探偵は意外そうな顔をした。
「そんなものなのか?」
探偵が言った。
「人口調整があるから、常に仕事があるし、飯も食える」
そう言うと、探偵は少し考えだした。
「たしかに……、
俺らのところでも、リストラとかあるしな。
いや……、
まてよ。
リストラと一緒にしてはいけないよな。
いや……、
でも仕事がなくなるって、
事実上の宣告なのでは?
いや違う。
社会保障がある。
そうかNcityは社会保障制度がないのか」
そうつぶやいた。
オイラにはなんの事だか、さっぱりわからなかった。
そんな事より、何を食おう。
あっ……。
あそこに美味しそうなものがある。
「探偵さん。あれは何?」
茶色のつやつやした美味しそうな食べ物があった。
「あれは……。
クリームパンだな。
あれはな……。
難しいな、説明するのは、
ちょっと待ってろ」
と探偵は、そのクリームパンを買ってきてくれた。
「ありがとう」
嗅いだことのない良いニオイがした。
カプっとかぶりつくと、中からなにかが出てきた。
「なにこれ。甘い汁が出てきた」
オイラがそう驚くと、
探偵は笑って、
「それはカスタードクリームというクリームなんだ。どうだ美味いだろう」
そう言った。
昨日の串焼きも驚いたが、このクリームパンも驚いた。
どうも美味いものは、汁が出るみたいだ。
探偵とオイラは二つずつクリームパンを食べ、丘守りの家に向かうことにした。
クリームパンを食べたオイラは、自信満々で胸をはって歩いた。
世界の全てを知ったかのような気分になったんだ。
これから行く、丘守りの仕事は、給料も安く、身分も低い、最下層中、もっとも最下層の仕事だった。
正直、Ncityの人間は丘守りに会いたがる人はいない。
オイラ達は丘守りの住む塔についた。
オイラは丘守りに話しかける
「丘守りさん。廃人ゲーマーの事知ってる?」
「なんだボウズ。
廃人ゲーマー?
俺様を誰だと思っている。
1の街の丘守り様だぞ。
知らぬことなどないよ」
そう言った。
「丘守りさん。頼む。廃人ゲーマーの事を教えてくれ。礼はする」
そう探偵は言った。
「そうだな……。
教えて欲しかったら、0.1Gいや1 G
払え」
丘守りは、自信たっぷりにそう言った。
「わかった。払うよ」
そう言い、探偵は1G支払う。
丘守りは少し驚き、金をジロジロと見渡し、怪しいところがないか確認する。
「わかった。俺様が教えてやろう。青の柱だ」
と丘守りは言った。
「青の柱?それはいったいどういう事だ」
と探偵は尋ねる。
「廃人ゲーマーといえば、青の柱。それは常識だ。キリンの首の骨の数と、人の首の骨の数が同じくらい常識だ」
そう言ったきり、なにも答えなくなった。
探偵は諦め、オイラに言った。
「青い柱?いったいなんなんだ」
オイラは首を振った。
探偵の表情は少しイライラしているようだった。
オイラは
「1Gって大金だから、嘘をつくことはないと思うよ」
そう言ったが、聞いているようには感じられなかった。
そうしてオイラ達は1の街を出た。