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それぞれの信念

ホテルへの帰り道、オイラ達は蕎麦というものを食べた。


蕎麦は探偵も初めてだったらしく、驚いていた。


「なぁこの麺は冷たいまま食べるのか?」

探偵は店主に聞いた。


「そうです。その出汁という冷たいスープに麺をちょこっとつけて、麺をすするように食べます」

そう店主は言った。


オイラ達は2人で蕎麦をすすった。


冷たい麺が少しのスープと共に口のなかに入ってくる。

口の中に蕎麦の香りが広がり、冷たい麺が口の中を冷ましてくれる。


「探偵さん、暑い日とかに良さそうだね」

とオイラがいうと探偵はうなづいた。


オイラ達は、ホテルに戻り話し合いを始めた。

まずは、これまで得たヒントを紙にまとめた。

1の街 傲慢 青の柱

2の街  強欲 赤い壁

3の街  嫉妬 北

4の街  憤怒 白い屋根

5の街  色欲 黒のライオン

6の街  暴食 金の剣

7の街  怠惰 白い聖杯


探偵は眉間にしわを寄せている。

なにを考えているのだろうか。


「北の方向で、白い屋根で、青の柱と赤い壁、黒のライオンと金の剣、白い聖杯がある家とかに住んでるんじゃないの?」

とオイラは言った。


探偵は大笑い、

「ボウズ。こういうのはな。比喩なんだよ。比喩というのは、たとえばひどい事を言われたとき、悪魔みたいな人だねっていうだろ。そういう奴さ」

そう言った。


「じゃあ白い屋根ってなんの比喩?」

オイラは質問した。


「そうだな。たとえば雪が屋根に積もっているところ。もしくは白髪頭の人、それか白い帽子を表しているのかもしれない」

と探偵は言った。


「なんか難しいんだね」

オイラがそういうと、


「そうだな。これからが探偵の本領発揮ってところだ」

と探偵は言った。


それからも、探偵はぶつぶつと独り言を続けた。

食事もホテルのものを食うようになった。


オイラは退屈だった。

でもお金をもらってるわけだから、近くに待機しておこう。

そう思って待機していた。

探偵がこの街の地図を持っていたから、オイラも勉強のために眺めていた。

オイラも探偵できるかな。

そんな風に考えた。


「なぁ探偵さん。オイラも探偵できるかな?」

そう聞くと。


「お前はバカ正直なところがあるけど、分析する力はあるから、できるかもな」

と探偵は言っていた。


探偵はプロだ。

そのプロに分析する力があると言われたのだから、将来大物になれるかもしれない。


そんな風に思った。


「ねぇ探偵さん。その廃人ゲーマーさんって、誰かに誘拐されたの?」

とオイラは聞いた。


「いや……、

その可能性は低いだろうな。

誘拐なら身代金を要求するはずだから」

と探偵は言った。


「じゃあ、どうしていなくなったのかなぁ」

とオイラは聞いた。


「そうだな。事件に巻き込まれたか、なにかが嫌になって逃げたかだな」

と探偵は言った。


そうか……。

探偵の仕事って、必ずしも人を幸せにする仕事じゃないんだ。

今回の場合、もし事件に巻き込まれたなら、廃人ゲーマーさんは助かるから、幸せかもしれない。

でも、もしなにかが嫌になって逃げたのなら、廃人ゲーマーさんは不幸になるかもしれない。


誰かが幸せになって、誰かが不幸になる仕事っていうのもあるんだなと思った。


オイラの仕事は?

靴磨かれて、そのお客さんは幸せ、オイラも幸せ。

不幸になる人は?

ライバルは不幸かもしれないけど、基本的にはいなさそうだな。


そう考えると、探偵がお金を持っているのに、どことなく寂しそうに見える理由がわかったような気がする。


探偵……、

大丈夫かな?


そして約束の10日が経った。


「探偵さん。今日で10日が経ったけど、どうする?」

オイラは聞いた。


「あぁそうか。今日で10日か……、

これからは謎解きだけだから、必要になったら、また頼みに行くよ」

と探偵は言った。


「わかったよ。じゃあね」

とオイラは探偵に別れを告げた。


……


元いた街に戻ると、占い師の婆ちゃんが亡くなっていた。


霊除け花がきれていたから、冷たくなっていた。

荷物はあらかた無くなっていた。


近くの蒸しパン屋のおっちゃんが、

一枚のカードを渡してくれた。

そこには

『靴磨きの坊やに、計算教えてくれてありがとう。これはお守りだよ』

とメモ書きが張ってあった。


オイラはなぜだか、涙が溢れてきた。

ひもじくて泣いたことはあった。

でもモノを貰って泣いたことがなかった。

この気持ちは何なのだろう。

胸の奥がぎゅっと掴まれるような感覚。

目の奥が熱くなるような感覚。

とても不愉快な気分だった。


回収車がやってきた。

みんな回収車を見送った。


「こんなご時世だ。いい時に死んだのかもしれない」

と知らない大人が言った。


オイラは無性に腹がたった。

腹がたって、腹がたって、仕方がなかった。

目から涙がボロボロでてくる。


「いい時ってなんだよ。

そんな言い方すると、婆ちゃんがオイラ達を見捨てて上手い事逃げたみたいじゃねぇか。

それにこれからオイラ達が苦しい世の中に巻き込まれるみたいじゃねぇか」

とオイラは言った。


すると、周りの知ってる大人たちが


「そうだ。あの婆ちゃん は誰かを見捨てるような奴じゃねぇ」


「そうだ。ふざけるな!」


「だいじょうぶ。婆ちゃんが俺らを見守ってくれる」


そう言った。


すると、その知らない大人は、

「いや。そんなつもりはなかったんだが……

そうだよな。

お前の言う通りだ。婆ちゃんは逃げたんじゃない。最後まで俺たちのことを気にしてたんだ」

そういい謝った。


オイラは探偵の事と、廃人ゲーマーさんの事を考えていた。


2人共が幸せになる道はないのかな?


探偵は廃人ゲーマーさんを見つけると沢山お金が貰える。

でも廃人ゲーマーさんは不幸になるかもしれない。

でも探偵は廃人ゲーマーさんを見つけられないと、お金があまり貰えない。

廃人ゲーマーさんは幸せかもしれないけど、探偵は不幸かもしれない。


なんかな。

そういうの……。

嫌だな。



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