第十三章 台風
台風の猛威は、海の底にも変化を及ぼしていた。
ごろりと流され、目を覚ましたパールは、一平の姿がないので泡を食った。
「一平ちゃん⁉︎どこ?」
呼んでも応えがない。パールはものすごく不安になった。
思い出したのは健太のことだった。
(きっと一平ちゃんは、健太のとこに行ったんだ)
そう思うやいなや、パールは泳ぎ出していた。
海上は荒れ模様だった。
一平は健太を心配して見に行ったのだ。
事実をパールは直感で感じ取った。
それは危ないことではないのか?危ないからこそ、一平は島へ上がったのだ。そうに違いない。一平はそういう人だ。
(いやだ!…)
一平に何かあったらと思うとたまらなかった。
(パールも行く!)
思った時には行動していた。
陸上でなど、穏やかな天気でも思うように進めないくせに、嵐の中をパールは必死で砂浜を這った。
たった五十メートルの距離が恐ろしく遠い。目的地は多分あそこだと思うのだが、目印にしていた風よけがない。パールが昼間一生懸命きれいにした風よけだ。
「どこ?一平ちゃん⁉︎」
泣きそうな声でパールは叫んだ。
よくぞ聞きつけたものだと思う。この暴風雨の中を。
一平がパールを見つけて駆け寄るのに、三十秒とはかからなかった。
「ばか!何やってんだ⁉︎」
あまりの無謀さに怒鳴りつけたが、パールは喜んでいる。
一平が見えない不安よりも、怒声でも一平の声が聞こえるということの方が、居心地がよかったのだ。
「一平ちゃん…いないんだもん…。健太んとこ…行ったって、思った…」
激しい風で思うように喋れないが、パールは訴えた。
「危ないよ…。だからパールも来た…」
それは逆だろう、と一平は目を剥く。
「危ない時は待ってるもんだ!」
「いやだよ。…一平ちゃんだけ危ないのいや」
「おまえ…歩けないくせに…」
海の中ならともかく、地上は明らかにパールには不利だった。
言ってるそばからパールは強風に煽られ、転がった。
間一髪、一平はパールの左手首を掴む。
「ああーん」
左手を囚われたまま仰向けになり、パールは身悶えする。
一平の方が四つん這いになり、パールのそばに這い寄った。
「掴まれ。ほら」
起こして自分の前に引き寄せる。
抱き上げられてパールは笑みを浮かべた。
(こんな時になんで笑える?)
呆れる一平にパールが言う。
「一平ちゃんが一緒なら、怖くないよ」
よく、パールが口にすることだ。
(おまえが怖くなくてもボクは怖いよ!)
何が怖いと言って、パールを守れないかもしれないことが一番恐ろしかった。
一平は周囲を見回した。
海に入るよりは横穴の方が近かった。
彼はパールを抱き抱えて走る。
だが、思うようには走れなかった。体の右側から激しい風で常に押されている。一歩一歩、大地を踏み締め、パールを風から庇いながら一平は横穴へ向かった。
健太のところに来た時よりは明るくなっていた。
人間の健太にも物の判別ができるくらいにはなっている。
身を屈めて横穴にパールを押し込んだその時、右腹に凄まじい衝撃を感じた。
崖に手を掛けて掴まってはいたが、それさえ弾かれた。一平はもんどり打って倒れた。
間近にそれを見たパールが悲鳴を上げる。
「一平ちゃん‼︎」
一平の上に何かが乗っていた。
壊れた戦闘機の座席だった。シートの革が剥がれ、金属が剥き出しになっている。機体との連結部のスプリングやパイプが、一平の右腹に食い込んでいた。
「いやああああっ!」
パールが喚きながら這い寄る。
穴の奥から健太も飛び出してきた。
夢中で座席を引きずり下ろす。
食い込んでいる金属が離れた途端、血が吹き出してきた。
パールの顔から血の気が引いた。
(どうしよう⁉︎)
一平は目を閉じている。気を失っているのだ。この状態では意識がない方がありがたいが、痛みとショックで気絶したのは決して良いことではない。
豪雨が一平の血を洗い流し、地に血溜まりを作ってゆく。
「…パールちゃん…」
どうしよう?と健太の目がパールを見上げる。
パールは奮い立った。自分の方が年上なのだ。
「手伝って。健太。一平ちゃんを中に入れるの」
パール一人ではとても動かせなかっただろう。一平は軽々とパールを抱き上げるが、その逆はいくら水の中でも無理だった。
四つの小さな手が必死に火事場の馬鹿力を出そうと頑張る。どうにかこうにか暴風雨からは避難できたが、一平の顔には血の気がない。こんな一平を見るのは初めてだった。『死』という言葉が頭を過った。
これはいつもでんと頼もしくパールの前に存在している一平ではない。すやすやと寝ているところすら、パールはまともに見たことがないのだから、このまま一平が死んでしまうのではないかと思っても無理はなかった。六つの大渦で腕を怪我した時よりも、たくさんたくさん血を流しているのだ。
(パールのせいだ…)
パールが一平ちゃんの言う通りおとなしく海の中にいれば…。歩けもしないくせに、のこのこ台風の荒れ狂う地上に来たりしなければ…。
いや、人間の子どもを見つけて一平に知らせたりしなければ、一平は今ここで災難に遭うこともなかったのだ。
そう思うとパールの心は目の前の海の波のようにうねった。後悔がひしひしと込み上げ、涙となって溢れ出る。
(ごめんなさい。…ごめんなさい、一平ちゃん。…ごめんなさい…)
すべて、自分のわがままから出たことだ。健太を助けたいと思ったことも、健太に一平を取られたくないと妬いたことも。危険なのに海上へ出てきたのは、一緒にいたいからでもあったが、一平がパールより健太の方を気にかけているのが嫌だったからだ。
(あんな小さい子相手に張り合うんじゃなかった…)
一平はちゃんと言ってくれたのに。健太を帰して、また二人だけで旅を続けようと。
どうしてそれをおとなしく待っていなかったのか…。
横たわる一平の枕辺に座り込み、小さな手で一平の頬を押し包んで呼び掛けた。
「一平ちゃん。一平ちゃん、目を開けて。一平ちゃん。死なないでえ…」
健太は呆然とその反対側に突っ立っている。
「ごめんなさい。もうわがまま言わないから。一平ちゃんの言う通りにするから。だから目を開けて。ごめんなさい」
喚き、泣くパールの声が聞こえたのだろうか、一平がうっすらと目を開ける。
「…パール…」
ほとんど聞き取れるかどうかという声で、一平は呟いた。
「一平ちゃん!」
パールは聞き取った。どんなに小さい声だって、一平の言うことには反応することができた。
「泣くな。パール…。ボクは大丈夫だから…」
パールが泣いているのがわかって、一平は言った。
「おまえが傷つくのを見るくらいなら…おまえが苦しむくらいなら…ボクが代わりになってやる」
口を利くのも苦しいはずだった。それでも彼は言った。
パールは首を振る。顔の左右に涙が飛び散った。
「ボクには治せない。…だからボクを使え。いくらでも、ボクを盾にするがいい…」
気力が尽きたのか、一平はそれだけ言って再び失神した。
「一平ちゃん‼︎」
大声で叫んでも、今度は目を覚まさなかった。
「…死んじゃったの?…」
健太が不安そうに訊いた。
―とんでもない!―
パールは奮起した。
一平ちゃんが死んでたまるものか。
パールが死なせない。
パールには力があるのだから。
癒しの力だ。
甚だ不安定な、不確実で未分化の、自分でもわけのわからない力だ。
だが、パールが歌えば皆良くなったではないか。
だから、パールが治す。
一平ちゃんを治す。
でも、このままでは歌えない。
こんなにぐちゃぐちゃに泣いていては、ワンフレーズすら続かない。
その時、パールの視界に健太の姿が入ってきた。一条の光のように。
そうだ、とパールは思った。
キッ、と顔を上げ、泣きながら言った。
「健太、あの顔して」
健太は目を丸くする。
「あの顔して!パールを笑わせて!」
健太は頷いた。なぜだかわからないが、そうしなければならない気がした。それほどパールの様子は緊迫して、否応もなかった。
健太は丸顔で、クリクリとした大きな目の少年だ。小さな鼻がほんのちょっぴり上を向いている。口も適度な大きさで口角が上がっていて、笑顔が可愛い。ある程度整っているからこそ、無理矢理崩したときの効果は絶大だった。健太のものとは思われないほど様変わりした顔の造りを見て、パールは笑う。無理矢理、笑おうとする。
健太も、全身全霊でパールを笑わすことに集中する。
互いの心が痛ましくて、ありがたくて、二人は三十秒ほどそんなことを続けていた。
やがてパールが言う。
「…ありがとう、健太。これで歌えるよ。一平ちゃんを治せるよ…」
静かに目を瞑り、姿勢を整えて、パールは歌い始めた。
以前、一平がリクエストしてくれたあの歌を。
なんだか懐かしいと言ってくれた、あの時の歌を…。
気がついたときには、陽は結構高く昇っていた。
常夏の太陽に照らされて白く光る砂浜が、横穴の入口から見えている。眩い光が暗さに慣れた目に痛い。
一平の剥き出しの胸の上にパールの頭が乗っていた。一平の右側に蹲るようにして彼女は眠っている。寝息の音が大きい。疲れきっているのだろう。
左側には健太がいた。一平の左腕に腕を絡めて、四分休符のような形で横たわっている。
右腕は自由になったので、一平は腕を持ち上げてパールの髪を撫でつけた。
彼にはわかっていたのだ。
自分が大きな怪我をしたことも、パールがそれを治してくれたことも。服がはだけているのは外傷を受けたのが右腹だったからだ。
どうなっているのだろうと、傷口に触れて確かめようとした。が、生憎とパールの身体が邪魔になって手が届かない。だが、あの時の痛みは嘘のように引いている。
(なんてやつだ…)
あの時何がぶつかってきたのかは知らないが、対象がパールでなくて本当によかったと、一平は心底思っていた。小さくてひ弱なパールにはひとたまりもなかったろう。そして一平には、パールが自分にしてくれたようなことはできないのだ。
愛しげに感謝を込めて髪を撫で付けて、一平はパールを起こさねばと思った。
まずは小さな声で呼んでみる。
「パール… 」
パールの寝起きは必ずしもいい方ではない。
う……ん、と億劫そうに身動きしたのでもう一度呼ぶ。
「パール、起きろ」
無意識にかそうでないのか、パールはいやいやと首を振る。一平はパールの耳を引っ張り、少し身を起こして直接耳の中に囁いた。
「もう、昼だぞ」
迷惑そうに眉間に皺を寄せて、パールは眠そうな目を開けた。
「体が乾いている。海へ戻れ」
目を虚ろに開けたまま、ニ、三秒ぼーっとしていたが、目の前にあるのが元気な一平の顔だということに気がつくと、生気を取り戻した。
「一平ちゃん!」
「おはよう…」
いつもの優しい微笑みで呼びかけられて、パールの心が泡立ってゆく。
「一平ちゃん…」
首っ玉に抱きつき直して、パールは喜びの声を上げた。
「治ったの?もういいの?痛くない?大丈夫?」
矢継ぎ早の質問に、一平は目だけで答えた。
それでも心配なのか、確認を取るかのごとく、パールは視線を転じた。
一平の右腹に、生々しく赤い皮膚がある。猛獣に食らいつかれ、振り回されたぼろ布のようにぐちゃぐちゃな形の痣のようだ。範囲も決して狭くはない。出血が止まり、やっと傷口が塞がった段階だったが、まだ痛そうだ。これは長く傷跡となって残るだろう。
「まだ、痛いでしょ?」
「我慢できないほどじゃないさ。ありがとう」
(なんでわかるの?パールがやったことが?」
礼を言われて、パールは目を瞠く。何をした、とも言っていないのに。
「おまえが歌ってくれたんだろう?すごいな」
「聞こえた?パールのお歌⁉︎…」
「懐かしい…小さい時の夢を見てたような気がするよ。父ちゃんも、母ちゃんもいたから…」
夢の内容はよく覚えていないが、常にBGMが流れていたような印象だけが残っている。
「それより…早く戻れ。また具合が悪くなるぞ。ここは日が当たらないからいいようなものの…」
戸外であれば日差しは強い。パールは一時間と保たないだろう。
「…ほんとだ…」
自分の体を触ってみて、パールはやっと気がついた。
身を起こして行きかけて、振り返った。
「…また、すぐ来ていい?」
「すぐはだめだ。三十分はしてから来い」
ちょっと不服そうな顔を残して、パールは一平の視界から消えた。
健太はなかなか目を覚まさなかった。
一平のすぐそばでパールの歌を聞いていたのだ。きっと睡眠薬のように作用して、深い眠りに引き込まれているのだろうと、一平は思った。
絡みついた健太の腕をそっと離し、一平は身なりを整えて外へ出た。
海は昨夜の台風が嘘のように鎮まっていた。暑い夏の陽は既に砂浜から水分を奪い、水気をたっぷり含んだ木々をいっそう青々と見せていた。
横穴の左手八十メートルほどのところに例の戦闘機の残骸がある。昨日見た時とは幾分形が違っていた。昨日よりたくさん欠片が散らばっている。風は主に左手の方から吹き付けてきたので、横穴の右手に多かった。崖の茂みに放り込まれたようになって止まっているのは座席だった。
あんなものまで…と、一平は昨夜のことを改めて思い起こした。まさかそれが自分にぶつかってきたのだとは、思い至らなかった。
グアム島でも被害が出たのだろうか?健太の家族に大事はなかっただろうかと、一平は遥か彼方の島を見やった。
もし遭難者が出ていれば、大掛かりな捜索の手がこの辺まで及ぶかもしれない。注意するようにパールに言っておかなくては…。
そのことを伝えようと歩き出し、木が倒れているのを見て思いついた。
(…そうか‼︎)
一平は横穴にとって返した。ココヤシの葉を受け皿にして、敷いていた枯れ草を運び出す。山のように積み上げ、丈夫そうな木の枝で拾った木切れを擦り出す。
摩擦熱で火を起こそうとしているのだ。原理は知っていたが、やってみた事はない。簡単に火がつくはずもなかった。
木切れに溝を掘ったり、木の枝を堅そうなものに変えたり、先を尖らせたりしてみたが、煙はなかなか上がらない。現地の人ならば、ニ、三分で火が起こせるのだろうが、擦りつける角度とか瞬間的な力とか、結構コツがいるらしい。
やがて海から戻ってきたパールと目を覚ましてきた健太の二人が珍しそうに覗き込んでも、大した変化は見られなかった。
そのうち一平も諦めて、あーあ、と砂浜に寝転んだ。視界に入る戦闘機をぼんやりと眺めていて閃いた。
彼は駆け出し、戦闘機の中から何かの部品を外して持ってくる。
「いいものがあった。こいつで試してみよう」
レンズと黒い布だった。計器に嵌っていたものと、搭乗員の服のなれの果てだろう。太陽の光をレンズで集めて火を起こそうと言う肚だった。
レンズの向きをあちこち変えてみて光が集中するところを探し、動かさないように静止して黒布に当てる。これならやったことがある。小学校の理科の時間に。ルーペで黒い紙を燃やして穴を開ける実験はとても印象に残っている。
思ったよりも早くその兆候は現れた。細く白っぽい煙が光の集まったところから立ち上ってくるのは、見ていて感動ものだった。やがて布に小さな穴が空いて、ちろちろと広がってゆく。小さな小さな赤い火も見えるようになる。火の赤ちゃん、火種だ。そこへ糸状の植物を近づける。ココヤシの繊維は踊って溶けるように消え、火が成長する。細い枯れ草を与え、徐々に大きな草から枝へと変えて行く。
ついに、立派な焚き火にまでなった時、幼い二人のみならず、一平自身も感動して『やった』と大声を上げていた。
わざと生葉を混ぜ込んで煙たくする。煙の量が多く、色が濃い方が良いのだ。狼煙には。
一平の目的は狼煙を上げることだった。
―この島に人間がいる。助けを待っている者がいる―
そう、グアムの人々に告げるための狼煙だ。
誰かがこれを見つけてやってきてくれれば、健太は島へ帰れる。一平もパールもここなら隠れる場所がたくさんある。グアム島のそばでは、人間は元より底引き網や囲いなどがあるかもしれないので、ここなら好都合だ。
ついでに適当に切ったハブの肉も焼いておき、健太に食べさせた。生き血の方は一平が率先して飲んでみせた。
一平とで飲んだことなどなかったが、昨夜の怪我で体が血を欲していたのだろう。思ったほどの抵抗はなかった。
元気になるぞと言われてパールも口をつけてみたが、すぐにべえ、と舌を出した。健太にしても同じだ。やっぱりただの水の方がいいよと、泣きそうな声で訴えた。
遅い朝食を最後に、三人の語らいは終わりを告げた。
ヘリコプターの音がこの島に近づいてきたのだ。
一平は健太にとるべき行動を言い含めた。
ヘリが近くに来たら、できるだけ大きな身振りをして叫べ。煙が絶えないよう、葉っぱを焚べるのを忘れるな、と。
そしてパールに声をかけ、海へ分け入ろうとする。
「お兄ちゃん‼︎」
行ってしまうのか、と健太は思わず呼び止めた。
一平は中腰のまま、願うように言った。
「日本じゃ…できないような、冒険の夢を見たな」
(夢?夢だって?違う。夢じゃない。これは…)
一平に言われて戸惑う心に、打ち込まれた楔が物申す。
―ボクたちの事は、誰にも言わないで―
「…元気でな…」
もう時間がないとばかりに、一平はそそくさとパールを抱え上げた。
「バイバイ…健太」
一平に抱かれたパールが健太の頭上から見下ろしていた。
「パールちゃん‼︎」
一平は駆け去る。振り向きもしない。
ヘリコプターはもうはっきりと形が見えるまでに近づいていた。
グアムの保安局員に収容された健太は、ヘリに乗っている間ずっと海を見下ろしていた。
「おめえ、本当に一人だったのか?」
見るからに幼い少年に、一人で狼煙を上げることなどできるわけがない。現地の職員は不思議がったが、探し回っても誰も見つからず、言葉も通じないこととて、諦めて健太一人を連れ帰った。もし他に人がいたのなら、多少なりともこの子が何らかの反応を示すはずだと。
健太は一平たちのことは何も漏らさなかったが、家族の問いにはこう答えた。
「神様と…天使が助けてくれたんだよ」
羽こそ生えていなかったが、パールの笑顔は天使そのものだった。そして一平は、どこかで読んでもらった本の、神話の神様のような姿をしていた。
健太の両親は、訳がわからないながらも我が子の無事を喜び、彼をしっかり抱きしめた。
(まだ、お礼も言ってなかった…)
健太は今頃思い出す。
(ありがとう。お兄ちゃん。パールちゃんも。元気でね。)
―いつかまた、ここに来よう。大人になったら。たった一人で来れるようになったら―
なぜなら、誰にも知られちゃいけないことだから。
幼い少年の心に、二人の姿はいつまでもいつまでも生き続けていた。