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●第六話 レイド

 翌日、僕は着替えてトースト二枚を食べた後、すぐに新宿駅に向かった。


「明日、遅刻したら【毒針】で殺すから」


 と帰り際に脅されたので遅れるわけにはいかない。晶には同情する面もあるが、いちいち脅してくる女とは付き合えないし、あの隠し通路を探索し終えたら、パーティーは解散でいいだろう。


「しかし、どうするかな……追加メンバーの応募ゼロか。まぁ、そんなもんだよな。結成したばかりで、リーダーがFランクでゴミスキルじゃあなぁ。しかもメンバーが二人だけだし」


 もう一週間か二週間ほど待てば、野良の冒険者が応募してくるかもしれないが、そんな悠長な時間は無い。二週間もあればハルトとエミのパーティーが探索し終わり、ファースト・ユニーク・アイテムは彼らの手中に収まる。

 ま、そんな希少アイテムがあるかどうかも不明だが、低ランク冒険者がどう頑張っても得られないような大チャンスなのだ。厄介なモンスターもいないときた。これを見過ごす手は無い。晶も探索系のアイテムを欲しがっているので、先行したがっていた。


「よぅ、お前ら。やっぱり来たな」


 ハルトとエミが雑居ビルの前で待っていた。たぶん、まだダンジョンの入り口が開けられていないので、そちらを待っていたのだとは思うが。


「物は相談なんだが、またオレらと組まないか? こっちはてんでレギュラーメンバーが集まらなくてな。朝早いのは嫌だとか、眠いとか言いやがって、隠し通路が見つかったっていうのに、あいつら全然食いつかねえんだわ」


 ハルトが頭を()きつつ、バツが悪そうな笑みを浮かべた。


「初心者向けダンジョンだからでしょ。まあいいわ。こちらもメンバーがそろっていないから、組んであげる。ただし、こっちはこっちでパーティーを結成したから、レイドという形にしてもらう」


 アキラが大規模制圧戦(レイド)という条件を付けた。

 複数のパーティーでボス相手にレイドを組むこともあるが、そのやり方はユニークアイテムの所有権で揉めるのが常なので、あまり行われることはない。よほど強力なボスや、時間制限付きの緊急ミッションのときくらいだと聞いている。もちろん僕はこれまで一度もレイドを組んだことは無い。


「レイドだぁ? 大げさな。初心者向けダンジョンにレイドしたなんて言ってみろ。笑いものになるぞ。だいたい、今回は探索目的で、ボスもいねえだろ」


「そんなことはどうでもいい。この条件が飲めないなら、話は無しよ」


「……ちっ、分かった。こっちも早く入りたいからな。入った後はお互い、好き勝手に動く、それでいいんだな?」


「もちろん。それが目的だもの」

「いいじゃない、ハルト。私この女、好きじゃないし」

「オレもだ。よし、なら行こう。ただし、管理局の前では喧嘩腰はやめてくれよ」

「別に、こっちは喧嘩腰になってるつもりはないわ」

「自覚無しかよ。はぁ」


 ため息をついたがハルトは雑居ビルの階段を降りていく。ちょうど時間になり、扉が開いた。


「おはようございます、皆さん。『ウェイウェイヒャッハー一攫千金』のパーティーですね」

「いいえ、私たちは新しいパーティーを昨日結成しました。レイドという形でお願いします」

 晶がはっきりと宣言する。


「レイド……パーティー分裂ということですか?」

「まぁいろいろあったんすよ。でも四人そろってれば、オッケーすよね?」

「ええ、まぁ。わかりました。ではそちらのパーティー名をお願いします」

「『ハイドシーカー』です」


 ゲートチェックは問題なくクリア。


「さーて、今日はどっから攻めていくかな」

「久々津、私たちは『左手の法則』で行きましょう」

「了解」


 左の壁伝いにずっと歩いて行くと、必ずゴールにたどり着くという迷路解法だ。ただし、中央に独立した回廊がある場合は、この限りではない。


「晶、マッピングはどうする? 二人だと少しキツいぞ」

「大丈夫、それくらい、私は暗記できるから」

「マジですか」


 驚愕(きょうがく)だ。


「というか、そこまで広いダンジョンじゃないでしょ。代々木ダンジョンならともかく」

「方向音痴なんだよね、僕」

「ふーん」


 なんだか(さげす)んだ視線を向けられた。【方向感覚】生えてこないかなぁ。


「それにしても、どの階層もモンスターが一匹も出てこないな」

「そうね……。狭い色違いのエリアが、セーフティエリアになっていることは見たことがあるけど、丸々は珍しいね」

「確認だが、晶、ボスを見つけた場合は、撤退でいいんだよな?」

「【毒針】で倒せそうなら考えるけど……ええ、二人だけじゃボス戦は無謀だから」

「それを聞いて安心したよ」

「もっと強くならないと、探索も捗らないか。早めに高レベルダンジョンでも挑もうかな」


 などと晶はおっかないことを言っているが、彼女がなぜそんなにガチ勢なのかの理由も知ってしまっただけに、ここは黙っておく。

 しばらく探索を続けたが、モンスターも宝箱も出てこなかった。


「結局、何も無かったな」

「ええ。あの二人はもう先に進んだみたいね」


 地下四階への階段に、カロリーメイトの飽き袋が落ちている。ゴミは投げ捨てちゃいけないってのに、まったく。

 下に進むと、そこは壁の色がそれまでの灰色から真っ白へと一変しており、雰囲気がまるで違っていた。

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