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●第五話 パーティー結成

 なんだこの状況。


 まぁ、彼女も僕に一目惚れとかそんな好意があるわけではなく、単純にあの隠し通路が気になるだけなのだろう。あそこの秘密を知っているのは僕らだけだし、初心者向けのF級ダンジョンは午後八時で入場は締め切られる。出るときに誰とも出くわさなかったので、あそこが見つかるとすれば明日の朝九時以降だろう。


「しかし、二人だけでは潜れないぞ」

「ええ。だからメンバーをあと二人(つの)る。ああ、手配は早いほうがいい。あなたが申請しておいて」

「ええ?」

「何か文句があるの? ご飯は奢るけど」

「ふむ。まぁそれならいいか」


 パーティー結成は、Fランクからでも行える。冒険者登録さえしてあれば、あとはスマホから手続きが可能、だったはず。


「うえ、本人確認が必要なのか。これ、君が申請しないと、リーダーにできないみたいなんだけど」

「じゃ、別にあなたがリーダーでいいわ。どうせこの隠しダンジョンを探索するためだけに結成する一時的なものだし」

「そうだね」


 別に一生組んでやるってわけでもないのなら、気楽にやるか。


「パーティー名は?」

「適当につけて。ああでも、ウェイウェイとかふざけたのはやめて」

「じゃあ、『ハイドシーカー』なんてどう?」


 ちょっと中二病が入っていて恥ずかしいが、隠された場所の探索者なら、ぴったりだと思った。


「『ハイドシーカー』……ええ、それでいいわ。いいえ、それがいい」


 文句を言われるかと思ったが彼女もとても気に入ったようで、パーティー名は問題なく決まった。僕の名前でリーダー登録し、彼女の本名も登録する。


「君の名前は?」

里森(さともり)(あきら)、字は千里の森の水晶玉よ」

「里森晶を検索してと……よし、パーティー勧誘を送ったぞ」

「承諾と。へぇ、あなた栽培スキルを持ってるんだ。どういうスキルなの?」


 しまった。登録時にスキル公開をデフォルトにしていたようだ。恥ずかしさに、いたたまれなくなる。


「どうって……僕のスキルは、色違いの花が咲くだけのタダのゴミスキルだよ」

「待って。青いバラとかなら希少種じゃなかったかしら?」


「いいや。遺伝子操作で青いバラの品種も作られているし、他の色もたいてい作られてるから、わざわざスキルで作る必要性が無いんだよ。しかもこっちは完全なランダムで三ヶ月や半年も水をやって待つなんてかったるいだけだし」


「そう。私のスキルはもう知ってるよね。【毒針】、たいていのモンスターなら十分と経たないうちに絶命させる毒塗りの針をMPがある限り無限に飛ばせる」


「なるほど、それで残弾は気にしなくていいのか。便利だね」

 戦闘用スキルはうらやましい。


「そうでもない。モンスターを倒すだけなら剣のほうが手っ取り早いし、私の欲しいスキルは戦闘系なんかじゃないから」


「ふうん。どんなのが欲しいの?」


「探索系。私ね、ダンジョンでいなくなったお姉ちゃんをずっと探してるの」


「いなくなった……? お姉さんも冒険者だったの?」


「違う。もう六年前の話だけど、私の姉は当時高校二年生、まだ民間人の冒険者制度も無かった頃よ」


「あっ、一般人のダンジョン巻き込まれ事件か……」


 まだダンジョンについてよく分かっていなかった黎明期(れいめいき)の頃は、管理が甘く、各地でダンジョンから出てきた魔物に襲われたり、ダンジョンにそのまま迷い込んで失踪する事件が多発した。事態を重く見た政府も直接の管理に乗り出し、今のように自衛隊と国交省が共同で各拠点の入り口を警備するようになっていった。


「お姉ちゃんは秋葉原で発生したダンジョンに巻き込まれた。そのとき一緒だった友達は魔物に襲われて大けがを負ったけど、運良く外へ出られた。でも、お姉ちゃんは出てこなかった」


 捜索隊も送り込まれたそうだが、見つからなかったという。そして何年も経過している。もうそれは絶望的なのではないか、と思うが僕は何も言えなかった。


「生きているかどうかは分からない。難しいだろうとは思ってる。でも……せめて遺骨くらいはお母さんのお墓と一緒の所に眠らせてあげたいの。八神(やがみ)()の墓に」


「八神? 里森じゃなくて?」


 さっき彼女の名前を登録したが、名字が違う。


「里森はお母さんが再婚した後の名前だから。本当のお父さんは私がまだ小さかった頃に亡くなっているから、顔も覚えてない。でも、私と里森家は何の関係もないわ。だから、私のことは里森じゃなくて、晶と呼んで。さん付けもいらないから」


「分かったよ」


 何やら複雑な家庭の事情がありそうなので、そこは深く聞かないでおく。


「さ、シチューが出来た。食べましょ」


 意外にと言ったら失礼だが、彼女の作ったシチューは定番の人参やじゃがいもの野菜に加えてセロリにホタテまで入っており、滋味深く本格的なもので、なんだかじんわりと広がる優しい味だった。


「旨っ!」


「そ。お代わりも食べていいわよ」


 夢中で食べながら、僕はどうしてか小学校の頃を思い出していた。

 あのときの食卓と違うといえば、父さんや母さんがいないことと、シロが足元にシチューをねだってじゃれついていないことくらいだろうか。犬はタマネギが食べられないので、分けてやれないのだ。

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