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●第六話 渋谷ダンジョン

 その後、僕らも晶達と合流し、捜索隊に加わったが、予想以上に広大な渋谷ダンジョンで、行方不明者は百名を超える多数。往来が多い公共施設の内部にダンジョンが出現してしまったこともあり、秋葉原ダンジョン事件以来の大規模ダンジョン災害となってしまった。


「ナギさん、おはようございます」


「おはよう」


「今日は線路方面に行ってみませんか?」


「それはいいが、柑奈、もうすぐゴールデンウイークも終わるぞ。ずっと捜索隊でいいのか?」


「別に良いですよ。行楽地なんてどこも混雑してるし、真衣とは家族になればいつでも遊びに行けますし」


 家族になるって……僕と結婚前提で話してるってところが凄いな。


「ならいい。だが、さっき陶冶さんから連絡があった」


「あっ、じゃあ」


「そうだ。竜骨刀が完成したそうだ。調整も必要だから、素振りして具合を確かめてくれってさ」


「じゃ、みんなが合流したら、そっちに行きましょうか」


「いや、遥さんは貴重な回復系魔法が使えるし、そのまま直で捜索隊に行ってもらうつもりだ」


「わかりました。それがいいかもですね」


「待たせたわね」

「おはようございます、皆さん」


 晶とリリがやってきた。


「ウワサをすれば、だな。晶、竜骨刀が完成した。陶冶さんのところへ先に寄っていくが、それでいいか?」


「うん、いいよ、それで」


 陶冶の工房へ四人で向かう。


「おお、来たな。これが竜骨刀だ」


 独特の灰色の刃は、鏡のように磨き上げられていて、うっすらと光を反射していた。

 柄や鍔の部分は別の金属を使ったようで、材質が異なっている。


「さっそくだが、試し斬りして、感想を聞かせてくれ」


「はい」


 試し斬り用の巻藁も用意してある。


「普通に斬っても?」


「いいぞ。好きなように使ってみてくれ」


「はい。じゃあ、よっと、うお!?」


 まったくと言って良いほど手応えが無かったので、少しびっくりした。

 だが、しっかりと切れている。


「わぁ……この切れ味、凄いですね」


 柑奈もダガーを使って驚いている。


「言い忘れたが、切れ味はその辺のミスリルソードよりも上だ。だから、うっかり斬りすぎて自分の耳やら足を斬らないよう、注意してくれよ」


「はい」


 もう一度。スッ、と斬れる。


「重心はどうだ?」


「問題ないと思います。ただ、少し軽すぎて、逆に腕の力がないと、相手の攻撃を止められないかも」


「久々津、こいつは止めるより、斬る武器だからな。とはいえ、少し重さがあったほうが斬りやすいか。よし、ちょっと柄に重りを足すから、貸してくれ。鵜飼も」


 陶冶が調整する間、別の竜骨剣も試してみる。


「ああ、なるほど、剣だとこんな感じになるのか」


 長さも重さもほぼ一緒なのだが、直剣のほうが命中が早い。

 その差はコンマゼロ何秒というごくごくわずかの差にしか過ぎないと思うが、刀は曲がっている分、攻撃速度は遅くなるようだ。

 扱いやすさはどちらも変わらない気がする。


「陶冶さん、こっちの剣も良い感じなので、両方、もらってもいいですか?」


「構わんぞ。どうせお前の剣だ。料金はこの前もらったアダマンタイト鉱石で充分だ」


「そういえば、まだ他にもミスリルや玉鋼やアダマンタイトがあるんですが、何か作ってもらってもいいですか?」


 ロードナイトなど、ちょっと面白い鉱石もあった。


「うーん、悪ぃな。急ぎの注文が入ってきて、今は手が空かないんだ」


「そうですか」


「ま、これだけはしっかり調整してやるから、遠慮無く言ってくれ」


「どうも」


 調節を終え、握りに布を巻いてもらい、滑り止めと衝撃吸収も完璧だ。


 ただ……


「竜が静かだな」


「ああ、削られて少し魔力が弱くなったから、回復させるために少し眠りにつくと言っていたぞ」


「そうですか」


 ずーっと寝ててくれるといいなぁ。


「さて、じゃ、渋谷ダンジョンへ行こう」


「おー!」


 リリはダンジョンに向かうとなると相変わらず元気が良い。


「久々津、わかってると思うけど、リリから目を離さないで」


「わかったよ」


 晶は心配している様子だが、僕はリリが悪いことをするとは思っていない。

 彼女の記憶と素性は未だに不明のままだが、一つだけ確実に言えるのは、彼女が人を襲ったことはいままで一度もない。

 それでもう充分だろう。


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