●第四話 戦える
駅の構内の廊下そっくりのダンジョンを奥に向かって四人で走る。
幸い、白い壁がほのかに光っていて、視界はよく見える。
【夜目】のスキルが効いているのかなと思ったが、曲利の言葉でそうではないとわかった。
「真っ暗なダンジョンでなくて助かったぜ。だが、おいでなすったぞ、モンスターだ」
「グレイウルフ、四体です!」
曲利と水月が前衛として並ぶ。僕と柑奈はその後ろだ。
対峙するグレイウルフ――灰色の大型オオカミも前後二列になっていた。
『名称 グレイウルフ レベル24
HP 222 / 222
攻撃力 88
命中力 75
防御力 52
回避力 84
解説 灰色の大型オオカミ。
群れで行動する。
鋭い爪や牙も脅威だが、
仲間を呼ぶため、注意が必要』
「グレイウルフ……確か、Cランクのモンスターだったな。Dランクのお前らには荷が重いだろう。手出しは無用、オレと心に任せておけ」
「はい、それと仲間を呼ぶらしいので注意してください」
「了解だ! 後列を任せたぞ、心」
「はい」
「さっさとそこをどけ、【疾風迅雷!】」
曲利が咆えた。
豪快な一閃がきらめいたかと思うと、床のタイルすら踏み潰すほどの踏み込み。
落雷がその場に直撃したと言っても信じてしまいそうな、凄まじい威力だった。
刀に押しつぶされたような死体が、四体とも右の壁にぶつかって、すぐに煙と化した。
パラパラと天井から破片が落ちてくる。
「雄馬さん、威力が強すぎ。それに、こんな狭い場所でその技を使われると、耳が」
「ああ、悪かった」
これが、Aランクの実力か。
正直、勝てる気がしない。
トロールやPKパーティーを倒せたことで、自分にもCランク程度の実力はあるのでは……と思っていたが、CとAにはとてつもなく明確な差があるようだ。
敵対すれば、一瞬で葬られる、か。
この人たちが、一般人をすぐに助けに駆けつけるような善人で良かった。
「あそこだ」
ホームの入り口に通じる階段を上がると、近くのベンチに二十人ほどの一般人が集まっていた。泣いている人もいる。
「もう大丈夫だ。助けに来たぞ」
「おお」
「ああ、良かった」
「死ぬかと思った」
「ありがとうございます……!」
「あの、こ、こっちへ。私が出口まで先導します」
水月が彼女なりにちょっと手を上げてアピールするが、誰も動かない。
「その人はAランクの水月さんです。この先は外に通じる安全なルートがあるので、急いで移動してください」
僕が呼びかけると、ようやく人々が移動し始めた。
「安全でしたっけ?」
柑奈が小声でツッコミを入れてくる。
「彼女がいれば問題ないだろ」
「ま、そうですね」
「よし、ケガ人はいないようだな。これで全員か?」
曲利が確認するが。
「いえ、二人ほど、向こうへ移動した人がいました」
「参ったな。出口とは逆方向か。ダンジョン内ではむやみに動かないほうがいいんだが」
「ダンジョンになっているとは気がつかなくて。止めた人もいたんですが……」
「わかった。心、オレが二人を探してくる。お前らは先に出ていてくれ」
「曲利さん、僕は暗いところでも索敵ができます。連れて行ってください」
「いいだろう。頼むぞ、久々津」
「私もパーティーメンバーなので付いていってもいいですか?」
「危険だぞ、柑奈」
「それ、そっくりそのままナギさんにも当てはまるんですけど」
「ま、構わないぞ、二人くらいならなんとか子守もできるだろう。ただし、オレから離れないこと。はぐれた一般人が心配だ。急ごう」
「「了解」」
別の階段を移動していると、獣のうなり声が聞こえた。
「止まれ。来るぞ」
角から飛び出してきたオオカミを曲利が即座に反応して斬り伏せる。
「あの調子なら、私たちは見物でも問題なさそうですね」
「ああ。だが、後ろも警戒しておこう」
僕がそちらを見たとき、ちょうどもう一頭のグレイウルフが階段に飛び込んでくるのが見えた。
「くそっ、回り込まれたか」
「少し耐えてろ。すぐそっちに行く」
「はい」
柑奈より前に出て、防御の構えを取る。
「GAU!」
グレイウルフが飛びかかってきたところを、ショートソード+2で迎え撃つ。
「くっ、重い!」
半端な攻撃では跳ね返せないだろうと思って全力で斬りにいったが、向こうも全体重を爪に乗せてきたようだ。
「ナギさん!」
左から柑奈がダガーで攻撃。浅かったが、グレイウルフは攻撃を嫌がり、いったん離れて距離を取った。
よし、倒せるかどうかは微妙だが、単体相手なら僕ら二人でも耐えられそうだ。
「いいぞ、二人とも。あともう一頭、うぉりゃ! 待たせた!」
曲利が向こうのグレイウルフを全滅させ、きびすを返してダッシュで戻ってくる。
このまま防御で任せてもいいのだが、僕の【竜眼】があれば、クリティカルヒットで急所を突かれることもなさそう。
なら、攻める!
グレイウルフは後ろから猛進してくる曲利に気を取られていたようで、僕への反応が遅れる。
「CYAUNN!」
右目への一撃が決まった。そこへ曲利の豪快な振り下ろしの一刀両断が入り、決着が付いた。
「なんだ、普通に戦えるじゃねえか、お前ら。焦って損した」
「すみません、初見の敵なので、相手の力量がよくわからなくて」
「そうだな、初見の敵は慎重なくらいがちょうどいい。行くぞ」
「「はい!」」




