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●第一話 デートと電撃?

 日曜日、渋谷のハチ公前広場にやってきた。僕一人だ。


 人混みは好きではないのだけれど、柑奈に大事な話があると連絡を受けたので来ている。

 桜の木が見えたが、そろそろ散り始めのようで花びらが舞っている。


 しかし……ここに来るとシロを思い出す。

 餌をやるときに、きちんと「待て」ができる犬だった。今にして思えば、父さんがきちんとしつけていたのだろう。僕が小さい頃に拾って帰った犬だったので、最初からしつけられていたわけではないからだ。


 ようやく来たか。

 ニヤニヤしながら忍び足で僕の死角から近づいてくる柑奈に気づいていたので、少しの間そのまま気づかないフリをしつつ、最後に柑奈が襲いかかってこようと両手を伸ばしたところで、クルッと振り向く。


「何のつもりだ」

「なぁんだ、とっくに気づかれてたか。残念」


 相変わらずニヤニヤしている柑奈は何を考えているのか、読めない。感情のオーラは相も変わらずピンク色MAXで、殺気や怒りではなさそうだが。ピンクって少し怒っているという意味だろうか? 襲いかかってこようとしてたしな?


「何のつもりだ、と聞いているんだが」

「やだなぁ、訓練ですよ、訓練。モンスターの死角を取って後ろから斬りかかるほうが、安全でしょ?」

「それを街中で、だまし討ちみたいに黙ってやる意味、あるのか? 道場でやればいいだろう」

「そうですね。すみませんでした、ナギさん。ところで、この服装はどうですか?」

「どうって……」


 白いブラウスに、少しヒラヒラした黒のミニスカート。ちょっと前までのクールな印象とは違い、清楚で大人しめの印象を受ける。化粧もしていない。


「ほら、好きとか、嫌いとか、素直な感想を聞かせてください」

「そんなもの、僕に感想を求めないでくれ。女子のファッションなんてさっぱりなんだから」

「フフ、やっぱり真衣に似てますね。ちょっとズレてる」

「お前、妹を馬鹿にするな。本当にあいつの友達なのか?」

「それは本人に聞いてください。でもまぁ、真衣は私と違って友達多いから、どうだろうなぁ。休憩時間にはよく話しているんですけどね。ナギさんと一緒で、からかうと面白いです」

「からかうな。それで、話って何だ?」


「ああーっ! く、久々津! お、お前……」


 聞き覚えのある大声がしたのでそちらを見ると、古手川がいた。

 ミリタリルックに大きなリュックを背負っている。単体で見ると目立つのだが、渋谷は目立つ人が多すぎるせいか、馴染んでいる気がする。というか、僕、古手川さんに何か悪いことでもしただろうか? アイテムの分配はきちんと済ませたはずだが……まぁ、あれから連絡全然取ってないからなぁ。でも、正式メンバーに加入したわけでもなく、彼は野良だから……


「こ、今度は違う女とデートって、自分、なんやねん! なんやねん、お前」

「え? いや、こいつはパーティーメンバーなんですが。一応、紹介しておきますね、こいつは鵜飼、僕の妹の友達で、新しく加入したメンバーです」

「どーもー、ナギさんと付き合って二週間目の鵜飼です。ナギさんとは今日6回目のデートで、キスもすませました」

「おい。いつ僕らがそんな何回もデートしたんだ」


 腕に抱きついてくる柑奈を振り払って聞く。


「エー、朝のランニング、いつも一緒にやってるじゃないですかぁ」


 あれをカウントするのか。ものは言いようだな。


「久々津……キスは否定せんのやな?」

「うっ、い、いや、あれはからかわれて、ほっぺにですよ?」

「アホが……! 鵜飼、ワイにもちょっと、からかいでええからほっぺにチューをし――」

「お断りします」

「ほれみぃ! からかいかどうかはどうでもええ、お前、それ他の付き合ってる女にバレたらホンマ大問題やぞ!」

「大丈夫ですよぉ、みんな見てて知ってるから、ね、ナギさん」

「そうだが、ちょっと黙っててくれ、柑奈」


 コイツ、絶対、わざと煽ってるだろ。


「下の名前で呼び捨て、もうええ、勝手にせぇ。ただ、レアアイテムの分配は気ぃつけえよ。この間も、ワイが臨時で入ったパーティーでも取っ組み合いの大喧嘩になって最悪やったわ。すぐそこのスクランブル交差点でも、冒険者が被害者の殺人事件まで起きてるしな」


「ええ? 殺人事件ですか?」


「そうや。なんや、知らんかったんか。ニュースにもなっとったぞ。掲示板も大騒ぎや。被害者がBランクやったさかいな。死体を目撃したヤツの話だと、腹をかっさばかれて、そりゃあもう酷いもんだったらしいで。あと、髪の毛が片側だけチリチリになってたそうや。たぶん、電撃魔法やな」

「え? いや、それは変ですよ、古手川さん。渋谷にダンジョンはありません。魔法は使えないはず」


 冒険者が魔法を使えるのはダンジョンのすぐ近くだけに限られる。


「そうとも限らんで。何か強い魔力を秘めたレアアイテムを持ち歩けば、使えるはずや。じゃ、一緒にパーティー組んだ仲やし、寝覚めが悪いから、電撃魔法を使うヤツには気ぃつけとけよ、久々津。じゃあな」

「ナギさん、あとでリリさんに街中で電撃魔法が使えるかどうか、聞いてみたらどうですか?」

「柑奈、お前、まさかリリを疑ってるとか言わないよな?」

「冗談。ただ、街中でPKされたときの対策を考えたほうがいいって話です。例の刀もレアアイテムですから」

「なるほど」


 竜骨で作ってもらっている刀のことは、あまり口外しないほうがいいだろう。ギルドや国交省の耳に入ってしまうと、いろいろ面倒だし。

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