●第十三話 地上
『おお……実に発展したな! ここまでとは』
駐車場でいったん竜骨様を外に出してみたのだが、『もっと見晴らしの良い場所はないのか』とワガママをおっしゃるので、晶と相談し、丸の内の屋上庭園(無料)へ連れて行った。
「じゃ、もういいですね。見つかると厄介なので、納めますよ」
『むぅ、もっと見たいのに』
「また別の機会に。というか、デカすぎて目立つから」
「ナギさん、係員らしき人が早足でこっちに来てます!」
はい、収納。
「やあ、良い見晴らしだったね」
「そ、そうですねー」
フーフーと吹けない口笛を吹きながら、あんぐりと口を開けて呆然としている係員さんを横目に、堂々と通過。やれやれ。
「でも、これからどうするのよ」
「僕に聞かれてもなぁ。あー困ります、お客様!のお客様が何か考えてくれるんじゃないの? それなりに長く生きた竜なら、知恵くらいはあるでしょ」
「投げやりねぇ」
「風齋先生に相談してみましょう」
遥が思いついたが、そうだな人間の知恵者のほうがいいか。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ほう、喋る竜の骨か!」
板張りの柳生道場で、白いあごひげをなでながら、風齋先生が興味深そうに目をキラキラさせた。
「ギルドと国交省への通報や相談は竜に口止めされてしまったので、どうしたらいいか、正直困り果てています」
「うむ。ならば、互いの希条件を出した上で話し合ってみるべきじゃろうな」
「エー、あんな恫喝してワガママを言う駄々っ子相手にですか?」
「そうはいっても、おぬしらは無事にここまで来た。それは相手に本当は殺す力がないか、もしくは無益な殺生を好まず、妥協が成立する相手と見るべきではないかの」
「ただの運で気まぐれというパターンも考えられますよ、先生」
「確かにな。その収納は相手の意思に関係なくできるのか?」
「今のところは。抵抗された場合、魔力の耐性として判別されるのか、ちょっと怪しいところではありますが」
「ではいざというときは斬って捨てることも考えるか。ワシがあごひげをなでたら、即座に収納すること。では、呼んでみなさい」
「はい。では行きますよ」
念じるだけで、その場に大きな骨が出現する。
『ここは、汗の臭いがするな。訓練場か』
「いかにも。この柳生道場の主、柳生風齋と申す」
『ほう……我を退治すべく、剣士を頼ったか。愚かな……!』
赤黒いオーラが燃え上がり始める。
「いやいや、退治などと、早とちりしてもらっては困るのう。あくまで客人として招いたまで。弟子でもあるしな。さて、竜よ、東京見物がお望みのようじゃが、ここでは竜を見た者が皆無と言って良い。騒ぎにならぬよう骨のままでその巨体を持ち歩くのも、我らには難しいのじゃ」
『それがどうした。東京を灰燼に化し、多数の死人を出すよりは、我を運ぶ方がはるかに良い選択であると思うが』
「確かにそのほうが良いが、我らにも限界というものがある。選びたくとも選べぬ方法じゃ。モンスターの持ち出しは、法律で禁じられておる。ただし、目立たぬ方法があるのなら、話は別じゃ」
『ふむ、確かにこの大きさでは、小さき者どもには運搬が難しいか。では破片にすることを許す。その一部さえあれば、我の魂は維持できよう』
「エー。ちなみに、大人しく成仏するというお考えは?」
『ない。いずれは我も再び眠るが、それは地上を見物してからの話だ。久々津凪とか言ったか、お前は少々、物事を投げ出すのが早いな。こらえ性が無い』
ア、アンタに言われたくはないよ! だいたい、そんなにお力があるなら、他人をパシリにせず、ビュンビュン、自力で飛び回るか、千里眼で見物していただけませんかねぇ?
『心の声がダダ漏れで聞こえておるぞ。少しは隠せ。我も骨一本となってしまっては、魔力が弱い。目も失っておるから千里眼も使えぬ。ふむ、そなたも不満のようだから、ここはひとつ、取引といこうではないか』
「取引?」
『知恵だ。千年を超える長きを生きた竜の知恵を対価として授けてやろう』
「んー、いらないかなー」
鼻をホジホジ。AI先生のほうが使えそうだし。
『なんだと! そのAIとは何だ』
「古い知識の竜にわかりやすく伝えるとするなら……『人造の神』ってところかな」
ほれ、ビビれ。
『うぬう、人間共め、いつも奇っ怪なものを作りおって! だが、たいした魔力はあるまい?』
「魔力は全然ないけど、現代知識に通じた知恵はあるし、何よりぃー↑ AI先生って凄く親切だしぃー↑ 脅してこないしぃー↑ 理性的だしぃー↑ 言葉も分かりやすいしぃー↑」
『わかった、わかった。脅したことは謝ろう。では、対価として、我の骨の一部を売ることを許可してやる。古代竜の骨であれば、魔術師どもがこぞって宝石を支払うであろう』
換金材料か。
まぁ、お金なら悪くないか。
「ちなみに、調合の材料や武具にしても?」
【竜眼】の鑑定結果では、ダイヤモンドよりも硬く、鋼よりも強靱。
魔法耐性が極めて高く、毒物や酸にも強い。
と出ていたからな。
ちょうど、僕のショートソードの刃こぼれが気になっていたところだし。
『不死や呪いの霊媒、それ以外であれば、認めてやろう。竜族の中には気まぐれに、気に入った人族にそうやって力を貸す者もいるからな。決して、倒されて好き勝手に使われているわけではないぞ?』
下級の竜はそうなってるんじゃないかと思うけど、まあそこは古代竜、間違いなく上位の存在だろうからプライドは尊重しておこう。




