●第四話 アキラ
新宿駅ダンジョンのほど近くに、ギルド本部がある。
地上に戻ってすぐ、僕らはギルドに向かった。
もちろん、新エリア発見報告のためではない。
魔石を換金して分配するためだ。
常連だけのパーティーならいちいちギルドを訪れるのも面倒なので、ある程度、アイテムが蓄積されてから分配することもあるらしいが、僕ら臨時の野良メンバーがいるパーティーはその都度で分配しないといけない。
「鑑定終わりました。ゴブリンの魔石(極小)で間違いありません。価格は時価でひとつにつき二千円、合計四千円となりますが、どうされますか?」
「換金、おなしゃーす」
「ではどうぞ、お確かめください」
電子振り込みなので、ハルトは自分のスマホの画面を操作して、こちらに分配した。
僕の配分は五百円。四等分なら八百円になるはずだが、そこはポーターの評価なのだろう。
最初に千円はもらえるだろうと期待していたので、なんだか徒労感がある。
今日の日当がこれとは。食費一日分にもならない。
「じゃ、これで配分はいいな? じゃ、お疲れ。また機会があったらよろしく頼むわ、ハイエナ君。まあ頼まないだろうけど」
「ひっどw じゃあねー」
ともかく、家に帰るか。
「ハイエナ、話がある」
帰ろうとしたら、アキラに呼び止められた。
「あの一応、僕、久々津って名前があるんですけど」
「じゃあ、久々津、話がある。あと、敬語はいらない」
「いいけど、何? 分配は元々が少額だし、諦めた方が良いよ」
「分配金のことじゃない。いいから、ここじゃ話せない。付いてきて」
アキラが僕に何の話があるのかわからないが、話があるというのなら、まずは聞いてみるべきだろう。
彼女に付いて行く。
「……って、結構歩くな。どこまで行くんだ?」
「もうすぐ。この先だから」
「この先って……」
人気の無い裏通りまで来ていて、この先は街灯も無い。時間は夜の八時すぎ、辺りはすっかり暗いのだ。
…………。
おいおい……まさかとは思うが、ここで僕を口封じして、ハルトとエミも口封じして、お宝を独り占めしようという計画?
戦慄していると、彼女が振り向いてため息交じりに言った。
「ふぅ。別に、変なことは考えていないから。早く来て。お腹も空いたし、食べながら話すわ」
「なるほど」
確かに腹は減ったので、食べながらでもいいだろう。
大きなマンションのエントランスに入り、エレベーターに乗り上階へ。
「ここよ、さ、入って」
「お邪魔します。って、やっぱり店じゃないし、ここもしかして君の家?!」
「そうだけど。ここなら余計な邪魔も入らないし」
「邪魔って、アキラ……さん、いくらお宝を独り占めしたいからって、そういう人として非道なことは……」
「やっぱり思い切り勘違いしてる。私はあなたに協力を求めようとしてるだけなんだけど。なんで人殺しの計画になってるのよ」
「いや、でも、他に僕なんかを誘う理由が」
「ある。あの隠し通路を知っているのは私とあなたも含めて四人だけ。その意味が分かってる? あなたじゃないとダメなの」
「それって……ああ、そうか、僕を選んだということは、ハルトやエミとはパーティーを組みたくないってことか」
「そういうこと。彼らは単純にダンジョンを楽しんで一攫千金を狙ってるだけよ。方針が合わない。パーティー名からしてふざけてる」
「まぁねぇ」
『ウェイウェイヒャッハー一攫千金』なんてちょっとどうかと思ったが、僕も日銭欲しさでパーティーに参加したし、彼女だってそうだろう。
「でも、君だって日銭を稼いでるにしては、ここの家賃って高すぎじゃないの?」
部屋も複数あり、かなり広々としている。
「家賃は私が払ってるわけじゃないし、ダンジョンに潜っているのは日銭を稼ぐ目的でもないわ。シチューでいい? アレルギーは?」
「いや、キウイの他には特にないし、キウイもかゆくなる程度だから」
「そ。じゃあ、そこに座って待ってて。すぐ作るから」
「ああ」
だだっ広いダイニングキッチンのテーブルに座ったまま、カウンター越しに料理を作り始めるアキラを見る。彼女はパーカーのフードをはぐっており、今は顔がよく見えた。無造作なショートカットの黒髪と、思ったよりも可愛らしい顔立ちだった。僕よりも少し年下だろう。
この家には今、僕と彼女の二人だけのようだ。