●第十二話 竜骨
一気に緊迫した空気の中、全員が土の上に跪く。必死に祈る。
もし、コイツと戦闘になれば、相当に不利だ。
相手にダメージを与えられそうな武器は僕が持っているアダマンタイト製のつるはしと、柑奈が持っているヒヒイロカネのつるはしだけ。遥はミスリルソードを修理に出しているため、今は予備の鋼の剣を装備している。
ダイヤモンドより硬く、鋼より強靱で、肉の軟らかい部分さえない相手にどう戦えと。
竜の骨はしばらく赤黒い殺意を放っていたが、リリが何かの祝詞をつぶやくと、次第にそれが収まっていくのがわかった。
「もう大丈夫です。竜のお怒りが静まりました」
「ふう、びっくりした」
「ナギさん、これからどうします?」
「放置だ。ゲートチェックで、ダンジョン管理局に報告しておこう」
触らぬ神に祟りなし、だな。
「残念ですけど、それしかなさそうですね」
『待て、小さき者どもよ』
しわがれてはいるが、低く力強い声が、直接、頭の中に響いてきた。
「うえ、喋った!」
「静かに。聞きましょう」
『我は古き竜にして、ここに眠る存在。なにゆえ、我の眠りを妨げたか』
「お許しを。私たちは魂が宿る竜の骨とは知らず、掘り出してしまいました。ここは採掘場なのです」
リリが正直に伝えるが……。
『採掘場だと? ここは北の果ての岩山だったはず。まさかここまで人族が足を踏み入れようとは』
「いいえ、竜よ、ここはダンジョン、東京という大都市の一角に存在しています。気候は温暖。何らかの理由であなたが眠っていた頃とは異なっているかと」
『なるほどな。長き眠りの最中に地形も変わってしまったか。して、今の帝国暦は?」
「帝国暦ですか? たしか、ネットで調べた東ローマ帝国は1453年で滅びたと」
リリはスマホの使い方もマスターしていたが、意外と勉強熱心だ。
『ローマ。知らぬ名だな。まあよい、たかが千年や二千年でここまで地形が変わることもなかろう。して、ダンジョン管理局は我をどう扱う?』
「ええと……」
リリが困ったようにこちらを見る。
「おそらく、分析の上、ガラスケース……綺麗なガラスの棺に納められ、厳重に警備された場所……神殿の一角にて丁重に埋葬されるかと」
あとでダンジョン管理局の人に「取り扱いは丁重に!」と言っておこう。
『ふん、見世物扱いか』
バレてる! ああん……
『決めた。竜の血を引く者よ、我を連れて行け。この世界がどう変わったか、少し見てみたい』
「はぁ、竜の血を引く?」
誰? そう思って見回すと、晶と柑奈とリリが「オマエだろ! オマエ!」というように僕を連打するように指さした。
「えっ、いや、この目は竜の血を浴びただけで」
『だが、竜の瞳になっているではないか。細かいことは良い、お前が連れて行け』
さいで。
竜はあまり細かいことは気にしない性格らしい。いや、個体差があるかもな。
「わかりました。では地上へいったん運びますが、そのぅ……そのままでは移動が困難ですので、少しの間だけ、暗い場所に入っていただけますか?」
どこの骨か不明だが、長さが三メートルは優にあるのだ。僕の身長より長いから、二人で担ぐにしても、通路の角を曲がるときが厳しい。モンスターだっているし。【次元アイテムボックス】を使いたい。
『構わぬ。ただし、よもやとは思うが、封印などを試みたならば、自分から殺してと懇願するほどの苦痛を与え、東京とやらを潰す』
「ははっ、滅相もございません。数時間以内に必ずや地上をご覧頂きましょう」
『数時間……数刻、一日には満たぬ長さの時間か、良かろう』
メッチャ封印したいけれど、方法もさっぱりだし、ギルドや管理局でも知っているかどうか。
『ギルドに通報すれば、暴れるぞ』
駄々っ子ちゃんかよ。三歳児かよ。
「恐れながら、竜よ、このような重大な事態は、上に報告しないとならない義務が……」
『ならぬ』
「ハァ……わかりました」
コレ、外に持ち出すと絶対やべえと思うけど、面倒だし死にたくないから今は言うとおりにしておこう。しかし、モンスター、普通に喋るんだな。今のところ、喋ったモンスターの報告例はないが、知的なモンスターは他にもいるのだろう。
……それって、人間界、結構やばくね?
まるで、冷蔵庫に十年前の賞味期限切れのパックを見つけたような、あるいは夏休みの宿題をやらないまま新学期を迎える憂鬱な気分で、僕らは地上へと向かった。




