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●第六話 二条の正体

 ……マジ無理。

 D級なら余裕だろうと思って受けた昇格試験で死ぬかと思った。

 こんなことなら大人しくE級から受けるべきだった。

 どうも通常の試験とは異なっていたようで、あとから試験官や審判が平謝りして晶も抗議してくれていたけれど。

 次のC級試験はもう当分先でいいや。

 普通はレベルが16以上、一次職クラスチェンジもして、装備を調えてからだろう。

 C級試験はその装備も審査の対象だと聞いている。


「あのクソ試験官、絶対本気で戦ってた。たぶん、私たちはCランクの実力はあると思う」

「そうですよ! 私もそう思います」

「同感」


 みんなはそんなことを言うが。


「いや、さすがに装備がショボすぎだよ。僕も晶も、タダの布の服だし」


「うーん、そうね。防具を整えた方が良いか。と言っても、次のオークションまで日があるなぁ」


「オークションじゃなくて、店売りで良いよ。それから、この+2のショートソードも刃がボロボロでヒビも入ってるから、修理に出さないと。昨日、Itube動画を見ながら自分で研いでみたんだけど、全然治らなくて」


 千百万円もしたので、簡単に買い換えるつもりはない。


「そう。武器の修理はギルドがやってくれるんだっけ?」


「うん。専門の鍛冶職人もいるんだけど、値段がお高くって」


 サイトをググって金額に震えたね。まさか研ぐだけで十万円単位とは思ってもみなかった。


「トロールのドロップ品を売れば、お金になるんじゃない?」


 『トロールの皮』を三枚手に入れたので、僕と晶と鵜飼で一枚ずつ分けている。


「あれは貴重品だから、防具の素材にしたいんだ。自動修復機能まで付くらしいし」


「へぇ。でも、一枚だけで足りるの?」


「足りないけど、盾ならなんとか」


「じゃ、私のもあげるよ。どっちかというと、久々津が前衛だし」


「悪いね」


「私は自分の防具も上げたいので、申し訳ないですが、ナギさん」


 鵜飼が気まずそうに言う。


「いいよ、それは。じゃ、ギルドショップを覗いてみるか」


「賛成。ところで『トラッパー』の装備、倒したの私たちなんだし、もらえないんですかね? あのリーダー、結構良さそうな鋼の鎧、身につけてたじゃないですか」


 鵜飼が言うが。昨日、事情聴取のとき、彼らは法の裁きを受けると聞かされたが、装備品については何も聞いていない。


「もらえないだろ。仲間の遺品ならともかく、そんなの許可してたら、PKが多発するぞ」


「ああ、それもそうですね」


「サイズもあるし、ダンジョン産ならともかく、金属製の鎧は難しそうね」


 晶が言う。ダンジョン産の鎧はすべてではないものの、サイズが自動で調整が利いたりするそうだ。


「そういえば……」


 二条のフルレート鎧は、ぴったり体にフィットしていたけれど、あれはオーダーメイドだったのだろうか。それともダンジョン産だろうか。


 そう考えていると、スマホの通知が入った。


「ああ、二条さんだ。『新宿ギルドにいます』……っと」


「なんて言ってきたの?」


「一度合流したいって。あと、通知をもらってたのに今まで連絡しないですみませんでしたって」


「律儀ねえ。まあ、無事みたいでよかったじゃない」


「そうだな」


 連絡が付かなかったので、ちょっと不安になったが、やはり仕事かダンジョンにでも潜っていたのだろう。ダンジョンに潜っている間は電波が届かないので、連絡は不可能だ。




 ギルドショップで防具を眺めていると、二条がやってきた。今回はダンジョンに潜るわけでもないためか、私服姿だった。白のブラウスに青のスカート、そして……右腕のギプス。


「二条さん、そのケガ」


「ええ、昨日、ダンジョンでやってしまいまして」


 二条が罰が悪そうに笑う。


「大丈夫なんですか?」


「ええ、もちろん。すでにヒールもかけてもらって、あと三日もすればギプスも外れるそうです」


 ギプスの”中”を【竜眼】で覗いてみたが、少しヒビが見える。やはり骨折していたようだ。


「まだ治ってないですから、無理はしないでくださいね」


「ええ、お気遣いありがとうございます。それより、そちらも大変だったそうですね。トロールと戦ったあと、PKにまで遭ったなんて……」


「え? それは誰から聞いたんですか?」


 まだ僕は彼女にそのことを話していない。どこにいるか現在地しか伝えていなかった。


「あっ、ええっと、け、掲示板で……」


「なぁに、そんなことまで、もうウワサになってるわけ?」


「いえ、変ですね。『トラッパー』がPKで逮捕されたことは掲示板でニュースになってますけど、被害者側のパーティー名は伏せてありますよ?」


 鵜飼がスマホでサイトを調べながら言う。


「うっ」


 青ざめて「しまった」という表情になった彼女はどう見ても何か隠している様子。


「おう、一条じゃないか、どうしたそのギプスは」


 通りかかった中年の男、顔は見覚えある人が二条を見て聞いた。


「し、志藤さん。私は二条です。人違いです」


 そう言って、顔を背ける二条。


「いやいや、何を言ってる。オレたちは日本でたった七人しかいないトップランカー、お互いの名前を間違えるわけなかろう。その闘気もな」


 絶望したように左手で顔を覆った二条。


「あっ、思い出した。Aランクの志藤守さんと、一条遥さんだ」


 志藤は病院でリリと面会したときにいたな。一条のほうはサイトで顔写真を見たくらいだが。


「「えっ?」」


「おい、本当だ、志藤さんがいるぞ」

「一条さんはどこだ?」


 周りにいた冒険者達がざわめき始めた。


「弱りましたね……。ここは人目がありますので、別室で話しましょう。事情をお話しします。ただし、申し訳ないのですが……リリさんは外で待っていてもらえませんか?」


 そう言われて、リリは冷たい目で言い返す。


「この場の誰も傷つけないと約束してもらえるなら。志藤さん、あなたが証人になってもらえますか」


「構わんぞ。事情はよくわからんが、安心しろ、リリさん。この一条は誰かを襲うようなヤツじゃあない。性格も聖騎士そのものだ。オレが保証する」


 志藤が二カッと晴れやかに笑った。

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