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●第五話 試験官 持内視点 その2

 息をのんでショートソードの模造剣を構えた久々津だが、ふん、全然構えがなってない。

 コイツ、剣術指導も受けたことがなさそうだ。それ系のスキルも一切ないな。

 どう見ても素人の構えだ。


「さあ、どうした、久々津、素振りくらいは許してやるぞ。いつでも掛かってこい」


 攻撃はちゃんと試験官らしく見てやる。お楽しみは、防御編だ。

 骨の一本や二本は覚悟してもらおう。

 お前はオレを本気で怒らせた。

 理由はそれだけで充分!


「うう」


「おい、早くしろ。攻撃を仕掛けるだけだろうが。あんまりトロトロしていると、不合格だぞ」


「こらー、久々津、さっさと攻撃しなさいよ。それと、あとで全員、説教だから!」


 パーティーメンバーの一人が怒っているが、何だよ、三人とも恋人っぽいじゃないか。


 ……本当に許せんな。

 どうせ、いつも適当に緩いダンジョンで、キャッキャウフフの楽しい冒険をしてるんだろう。

 こちとら、時々モンスターハウスを踏んで死にかけたり、ちょっとした些細なオレのミスから重傷の仲間が出たりして雰囲気が針のむしろになったりしてたってのに。


 ……許せねえよ。久々にキレちまったよ。


「い、行きます!」


「応!」


 ようやく攻撃が来たか。覚悟が遅えよ。だが――くっ!?


 重い!

 い、意外だ。

 コイツ、ひょろっとしているのに、ひょっとしてオレよりパワーは上じゃないか?

 踏み込んでからのスピードも予想以上に速かった。

 いや、ビビるな。相手に呑まれたら負けだ。


「どうした、久々津、お前の攻撃はそんなものか。そんなことでダンジョンで大切な人を守れると思うなよ」


 なんだ? 金色の目が光った。


「むっ!?」


 左下からの切り上げ。

 左からの攻撃はオレのように利き腕が右だと攻撃をあしらうのが難しい。

 しかも下から。


 コイツ、構えは素人のくせに、妙だな、いちいち攻撃は嫌らしいポイントを的確に突いてくる。


 ひょっとして、見えて……いるのか?

 オレの防御の癖をすべて見抜いている?


 いやいや、そんなはずは。

 あり得んだろう。

 コイツとは初対面だし、いくら先ほどまでずっと試験を見ていたとしても、D級以下の連中に、見てすぐ癖を見抜き、それを攻撃するような技量はないはずだ。


 となれば――ははぁ、何かそれ系のスキルを持っているな。

 金色の目もそれかもしれない。


「おい、持内、少し長いぞ。もう合格でいいだろう」


「ああ、そうだな。次はお前の防御を見る。いいか、本気で防御しろ。でないと――死ぬぞ?」


「持内、これは試験だからな。頼むぞ」


 まずは大きく振りかぶって……最大パワーで一刀両断を狙う。

 昼間からぁ~、人前でぇ~、イチャイチャしやがって!!!


「オラァ!」

「くっ」


 よし、真正面から受けたな?

 受け止めやがった、この間抜けが!

 このまま身長差と体重差も利用して、押し切る! 両腕をへし折ってやる!


 ぬっ!? 横に躱した? 柔軟だなコイツ。

 なら、横凪ぎはどうだ!


 剣術師範の風齋(ふうさい)先生から「持内、お前の振り下ろしからの横凪への切り替えは良い物を持っているのう」と褒められた得意技だ。雨の日も風の日も、台風の日だって、一日と欠かさず真剣で素振りしてきたからな。


 タメゼロでの直角横薙ぎコンボ、初見殺し。


 だが――オレは目を見張った。

 初見ではまず避けきれないはずの最速剣をコイツはギリギリで受け止めやがった。


「だが、押し切れる! パワーではオレが上!」


 体重を乗せる。乗せるが、剣が一ミリも動かない。

 いや、待て、いくら相手が筋力を鍛えていたとしても、そんなはずは。


「くっ、くそがぁーっ!」


 こちらは息が上がりかけたというのに、久々津は落ち着いた目をしている。

 さっきまでアワアワしていたのがまるで嘘のようだ。

 コイツ、実は上級者じゃないのか?


 ――わからん。

 とにかく、押してダメなら引いてみろ、

 ここはいったん引いて、今度は連続攻撃だ。

 ……アレも出すか。出し惜しみは無しだ。


「おりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃあ――――――秘剣【流星一刀!】」


 解説しよう。

 オレの秘剣スキル【流星一刀】は一秒間に三十二連打が可能だ。掛け声はさらに滑舌良く回数を水増ししている。

 その()の速度、秒速三百四十メートル。

 ――ただし、それはあくまで平均。

 最後のひと突きだけは、本当に剣も秒速三百四十メートルまで加速し、気温、湿度、体調、その他諸々の条件がすべて整えば、

 音速を超えることもある。

 通常、冒険者はダンジョンから離れると筋力やスピードが落ちる。が、ここ新宿ギルド支部はすぐ近くにダンジョンがあり、力の減衰はほとんど感じない。


 そしてっ! まさに今っ! オレは音速を超えねばならんという覚悟、いや使命がある!

 たとえ、この腕が砕け散ろうとも! この一撃にすべてを託す!

 筋力200%!

 リア充、爆、散!



「チェストォー!!!!!!」


 ズドン、キィイインという手応えと共に、ついに音速を超えた。


「やったか?」


 ヤツは正面にいたはず。なら、この技を受けて無事では……


「うう、耳がおかしい……」


 久々津は半身になって音速領域を躱したようで、生きていた。


「馬鹿な……生きて……いるだと?」

「アホ。生きててもらわねば困るだろうが。それまで! 文句なし、D級試験は合格だ!」

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