●第四話 試験官 持内視点 その1
あのハーレム野郎は絶対にボッコボコに潰す!
美少女を三人も連れて、名前で呼び捨てとか、ヤツは許されるレベルを超えた。天が許そうともオレが許さない。リア充にわからせてやるのだ。ここはイチャラブの遊び場なんかじゃないってことをな!
「おい、持内、午前の試験だが、お前、F級相手に本気出してただろう。あんなの適当にあしらって、合格を出すだけでいいんだぞ。それで今日のバイト代はきちんともらえるんだから」
審判を引き受けた同じパーティーのメンバーがてんで的外れなことを言っている。
「鵜飼さんのことか。多少腕とセンスがいいので、ついこちらも熱くなった。それより、観客席に変な目をしたヤツがいただろう」
「変な目? ああ、金色のおかしな目をしたヤツがいたな。あいつがどうかしたか?」
「あいつ、三人も女を連れてたぞ」
「んん? ああ、同じパーティーなんじゃないか?」
「ああ……タダのパーティーメンバーかな?」
「そりゃそうだろう。いくらなんでも、三人とも恋人ってあり得るのか? いや、ないない、ないって」
「ふむ。まぁ、ルックスはそこそこだが、モテそうって感じでもなかったしな。はっは、そうかそうか、そうだよな」
うむ、今日も昼飯が旨い。
このところ、新しい鎧の修理代が高く付いて、ダンジョンに潜るたびに赤字になっていたが、今日は良い気分転換になった。
「じゃ、午後も頼むぞ、試験官殿」
「おうよ、審判殿」
軽くストレッチをして、受験生が集まってくるのを待つ。といっても午後はD級、三時からはC級試験もあるが、C級であるオレは一時のD級試験だけでお役御免だ。Cランクからは装備も試験対象となり、そう頻繁ではないものの、受験生や試験官に死人も出たことがある物騒な試験だ。いくら実戦が重視されるとは言っても、ランクを決める程度のことでそこまでやる必要もないだろう。
「うう、緊張してきた。頼むぞ、アキラ、すんなり合格してくれ……」
「なんで順番が私より後ろのくせに、そこまで緊張するのよ」
「性分なんだよ」
「だらしないなあ。ま、私が軽々と合格すれば、楽勝気分になれるってことか」
「そういうこと」
なら苦戦させてやろうかとも思ったが、さすがにそれは大人げないし、アキラという子が可哀想だ。
「では、一番、里森さん、前へ」
「はい、よろしくお願いします」
「うん、よろしくー。実力は見ればすぐ分かるから、気負わずに気楽にね」
「はぁ」
彼女が選んだのは投げナイフ。珍しいな。
「ちょっと投げさせてもらってもいいですか? 私、普段はスキルで針を使っているので」
「へえ、構わないよ」
アキラがナイフを投げるが、思ったところに行かなかったようで、不満そうな顔をする。
「まだ、投げるかい?」
「いえ、もういいです。当たらないなら、近づいて当てれば良いし」
「ふむ、ま、そうだね。ただし、相手の体当たりには気をつけて」
「はい」
審判に目で合図し、試験開始。
まずは相手の攻撃を見る。
「なっ?!」
少し前傾姿勢を取ったかと思ったら、アキラはナイフを投げると同時に突っ込んできた。
スピードが速い!
慌てて投げナイフを弾き、懐に入ってからの投げナイフも上半身をのけぞらせて躱す。
「へえ、こないだのDランクの戦士よりやるじゃん」
当たり前だ。こちとらCランクだぞ。
「あ、ナイフが尽きたので、降参です」
「まあいいだろう。だが、そこは拾うか、もうちょっとガッツが欲しいな」
「ま、スキルならいくらでも出せるので」
「ふむ。次は防御を見る。ナイフを拾って」
「久々津~、そっちの一本、拾って」
「ああ」
「ついでにそっちも」
「ええ? まあいいけど」
ほうほう、どちらかというと、彼の方がこき使われているな。
アキラの防御は、動きが良かったので、すぐに合格を出してやった。
「次、十番、ええと、なんて読むんだ? ひさびさ?」
「くぐつです」
「ああ、久々津、そう呼ばれてたな。じゃ、前へ」
「うう、ダメだ、勝てる気がしない」
気が弱いな、こいつ。
「もう仕方ないなあ、ナギさんは。別に勝たなくていいんですって。ほら、緊張をほぐす、おまじない。チュッ」
「「うおっ!?」」「「ええっ?」」
なん……だと? 何が起きた? ほっぺにチュー……だと?
「なななな、なにするんだ、鵜飼」
「あはは、ほら、緊張、ほぐれたでしょ」
「いやいやいや、そういうことじゃなくて」
「むぅ、じゃ、私も久々津さん、おまじない、チュッ」
「リリ!?」
「なぁーっ!」
「落ち着け、持内」
「ふん。久々津、今ので充分、気合いが入っただろう。それでへっぽこな攻撃をしてみろ。お前は即座に不合格だ」
「そんな」
「さあ、剣を握れ。剣を握ったら、それは命の取り合い。オレを殺す気でかかってこい! でなければお前を殺す!」
「こらこら持内、言い過ぎだ。あくまで試験だぞ」
関係ねえ!