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●第三話 先行者の栄光か、それとも……

 最初こそ、慎重に慎重さを重ねて動いていた僕らだったが、次第に歩くスピードは早くなっている。

 理由はちゃんとある。敵と遭遇(そうぐう)しないのだ。


「さて、こっちは……うお、また階段か。エミ、これで何階だ?」

「この階が地下四階で、それを下りたら地下五階だよ、ハルト。てか、広すぎなんだけど。これ、元のダンジョンより絶対広いって」


「だなぁ」

「あのさ、何度も言うけど、階段を下りる前にその階を全部探索しておいたほうがいいわ。それが攻略の基本だし」


 見た目はそうでもなかったが、アキラはコンプリート重視の、バリバリのゲーマー気質らしい。僕も小学校の頃はそうだったな。攻略サイトを参考にし始める前はそうだったから気持ちはわかる。


「ふぅ、さっきから何度も言ってるだろ、アキラ。いいか、オレたちは宝箱を探してるんだ。マップ攻略が目的じゃねぇし」


「だけど!」


「わかったわかった、もういい、この階段は無視だ。それでいいだろ。とにかくこの階で宝箱を探そう」

「だね。この下、ひょっとしたらボスがいるかもしれないし。りっくんがいない時にあんまり深く潜らない方が良いって、ハルト」


「まぁな。でも、アイツ、オレらが宝箱を見つけて、しかもレアアイテムだったら、どんな顔するかな?」

「ぷぷっ、メッチャ悔しがりそう」

「いいねぇ、よし、手分けして探そう。アキラはそっち、ハイエナ君はあっちを頼むわ」


「分散ですか? ハルトさん、パーティーの分散は反対です。そりゃ、敵とまだ遭遇はしてませんが……」


「おいおい、これだけ歩き回って敵が一匹もいないって、たぶん、いいや、ここ絶対にセーフティエリアだべ。敵は一番下のボス一体だけってことだ」


 ダンジョンの一部のエリアは敵が出てこない場所も存在する。それが、ここなのかもしれない。


「いや、出現率が極端に低いエリアも存在するし、本当にセーフティと判定されていない場所は決めつけるのはよくない。まだ私たちは一度だけ、短時間の探索しかしていない」


 アキラが言うが、その通りだろう。


「はー、面倒くせえ。やっぱ気心の知れたパーティーのほうがいいな。次はリクと潜ろうぜ、エミ」

「そうだね。それに、別に今日でここを全部クリアする必要なんて、なくない?」


「だな。腹も減ってきたし、いったん帰るか。言っておくが、二人とも、ギルドへの報告はするなよ」

「なっ……!」


 新しいダンジョンを発見したり、未踏破の場所を見つけたら速やかに報告しなければならないという冒険者の決まりがある。罰則は重いものでは懲役刑もあったはずだ。


「だ、黙りですか。報告すれば発見報酬ももらえるはずですが」


「そうだが、ここは初心者向けダンジョンだぞ? 強敵も出てこないんじゃ報酬もどーせ大したことはないだろう。だったら、レアアイテム、ファースト・ユニーク・アイテムを選ぶべきだろが」


 ファースト・ユニーク・アイテム。

 別名『先行者の栄光』と呼ばれるこのアイテムは、唯一無二の存在で、最初に発見したものだけが手にすることが出来るというレア中のレアアイテムだ。オークションでは小さな魔石一つでさえ、数億円という信じられない値段が付いており、これを目的にダンジョンに潜っている者も大勢いる。


「攻略組でもない僕らが、Fランクのダンジョンで……?」


「おーよ。ただし、ハイエナ君、見つけてもオレらパーティーで分けるから、君は金だけだけどな」


「そうですか。まぁ、ちゃんと分配金を渡してくれるなら、それでいいですよ」


「物わかりが良くて助かる。アキラもそれでいいな」


「私が先に発見したものは、私のものでいいなら、それでいい」


「おいおい、ちょっと待てよ。それは話がちげーだろ」

「そーよ、そーよ、勝手なこと言わないでくれる?」


 まずいな、億単位の金の分配となればこうなって当然。アイテムの配分で揉めた冒険者パーティーが分裂したり脱退するというのはよくある話だ。僕は間に入って言う。


「待った。まだ見つけてもいないアイテムで揉めたって仕方ないでしょう。ギルドに分配を任せるという方法もあります」


「そうだな、じゃ、ギルドに決めてもらおうぜ。公平な分配をな」

 ニヤリと笑ったハルトは、リーダーに有利な配分になると思ったのだろう。


「まぁ、ギルドが配分するなら、それでもいい」


 少し考えて引いたアキラも、それほど不利にならないと考えたようだ。唯一無二のアイテムだと、どちらかは金銭での配分となるため、まぁ、それで揉めるのは金銭より希少価値のアイテムを求める高ランク冒険者だけか。


 僕らは一度地上へ帰還することになった。

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