●第二話 昇格試験へ行こう!
晶のマンションに行ってみたが、やはり彼女は少し眠そうな声だった。時間は午前十時を少し回ったところ。お寝坊さんにはちょっと早いと言えば早い時間帯だ。少し悪いことをしてしまった。
とはいえ、ご飯も食べてすっかりこちらは目が覚めてしまったし、鵜飼は昇格試験に行くつもりなので、そこに行かなければ間が持たない。妹の友達の女子高生と二人きりでプライベートな時間をどう接しろと。さっぱり分からん。選択肢を間違うと、真衣がメッチャうるさいのは目に見えているので、無難な選択を選ばせてもらう。
幸い、ドアロックは解除してもらえたので、ドアを開ける。
「あ、久々津さん、おはようございます!」
日に日に元気になっていくリリは体調も良いようで、安心した。リリからはピンク色のオーラは放たれていない。というか、まったくオーラは見えないな。レベル差のせいかも。
「おはよう、久々津。あー、鵜飼も来たんだ。まぁ、上がってよ」
フラフラと、後ろから晶が姿を見せた。ただ、ネグリジェ姿だったので、慌てて壁に目をそらす。
「お、お邪魔します」
「晶さん、男性の前なので、ちゃんと着替えてくださいよ」
「分かってるけど、昨日の今日で、あんた達、元気ねぇ。私、ちょっと筋肉痛で、疲れも取れてない」
「フッ。若さですかね」
「は? あ? 私まだこれでも十八歳で去年高校を卒業したばっかりなんだけど?」
「あー、やっぱりそうなんですか。そんなに年齢は離れてないと思ったけど、やだなぁ、タダの冗談ですよ」
「そう」
「ふうん、晶は一個下なのか」
「ええ? 私より久々津、下だと思ったのに」
「上だ」
「そ、そう。えっと、じゃあ、久々津、さん?」
「いや、今まで通りで良いよ。そのほうがやりやすいだろう?」
今更だ。
「そうね。そうさせてもらうわ。さて、何か飲まないと、体がカラカラだわ」
「じゃあ、これ、ほら、トマトジュース味のポーション」
「うぇ。なんか嫌。オレンジはある?」
「あるよ。百パーセントのほうと、三十パーセントのほう。どっちがいい?」
「三十のほうをちょうだい」
晶とリリがトーストを食べた後で、ギルドに向かう。
「ひとまず、僕と晶はD、鵜飼はEを取ろう。時間は……Eが十一時、Dは一時か」
ちょっと時間が合わなかったが、鵜飼はちょうど受けられる。
「僕らも応援を兼ねて見学しておこうか」
「そうね。暇だし」
「ありがとうございます。たぶん楽勝ですよ」
「うーん、試験官の相性もあると思うけどね。ギルドの昇格試験って、割といい加減だから」
「そうなのか」
「あれ、ナギさんって、昇格試験は初めてなんですか?」
「ああ、ついこの間まで、レベル上げもろくにしてなかったしな」
「プッ、そういえば、ハイエナって呼ばれてたね、久々津、あはは」
「そこまで笑わなくたって良いだろ。戦闘スキルがないと、レベル上げは難しいぞ?」
「パーティーは組まなかったんですか?」
「良いパーティーはなかなか拾ってもらえないし、良いパーティーはたいてい固定メンバーを組んじゃってて、たまに補欠扱いでようやくって感じだったからね」
「ああ。でも、このパーティーは強いですよね?」
「今はね。こいつが変な薬のせいで、【竜眼】とか手に入れるから」
「ナギさん、そういえば、その【竜眼】ですけど、あまり人には話さないほうがいいです。狙われますよ」
「狙われる? なんで?」
「珍しいレアだから。コレクターとか」
「うわ、目そのものが狙いかよ、怖いな」
「さすがにそれは無いと思うけど……でもあまり言いふらさない方がいいってのには賛成。昨日のPKみたいなのもあるし、手の内は隠すほうがいいかも。パーティーメンバーも四人そろったから、増やす必要はないでしょ?」
「いや、前衛はやっぱりもう一人は欲しいよ。回復系も」
「そうね。あ、二条さんに連絡は?」
「そういえば、昨日、返信できなくてごめんなさいって返事が来てたよ。なんか急用があったらしくて」
「そう。どうかなぁ、その感じだと、また誘えば、入ってくれるかな?」
「誘ってみればいいんじゃないですか? それで断られたら脈無しってことで」
「そうね。あっ、あのうるさい関西人はもういないって念押ししてね」
「分かったけど、やっぱり晶はうるさいのが気に入らないのか」
「気に入らないわよ」
わがままだが、気持ちは分からなくもない。
「じゃ、私、受付に申し込んできます」
「うん」