●第一話 謎のピンク色オーラ
チャイムを連打で鳴らすヤツがいる。
「くっそ、昨日はヘトヘトに疲れてるんだからもうちょっと寝かせてくれよ。真衣め……ああもう、分かった分かった、今出るから。真衣、近所迷惑だぞ。ここ壁薄いんだし」
ぼやきながらドアを開けると、真衣だけでなく鵜飼も隣にいた。
「ほら、やっぱり寝てた。お兄ちゃん、朝は弱いんだって」
「ほっとけ。それより、鵜飼も一緒か」
「はい。今日は昇格試験に一緒に行くっていうお話でしたよね、お兄さん」
「あー、そういえば事情聴取ですっかり忘れてたけど、そんな話もチラっとしたなぁ」
「酷いじゃないですか。私、今日はメイクもバッチリ決めてきたのに」
鵜飼はアイシャドーに口紅までしてケバくなっている。
「いや、試験官の人が男なら、少しは効果あるかもしれないけど、基本、戦闘の動きを見るだけで、気合い入れるようなもんでもないぞ。Cランクまでは毎週、受けられるんだし」
「ナギさんに見てもらいたかったんですけど、コメントも無しですか? それって女の子に対するマナーとして冷たくないですか?」
「え、いやごめん」
昨日の鵜飼は短パンに革ジャンと動きやすい服装だった気もするが、おしゃれさんなのか、今日はきわどいミニスカに白のブラウスで、なんだか雰囲気が明るくなっている。
「柑奈、お兄ちゃんにそんな高度な技術、求めないであげて。彼女いない歴=年齢の人なんだし」
「ほっとけ。余計なプライバシーを開示すんな。で、真衣は何しに来たんだ?」
「何よぅ、せっかくご飯作ってあげようと張り切ってやってきたのに、それが可愛い妹に対する物言い?」
「あー、飯ね。うん、ありがとう。二度寝していい?」
「仕方ないなぁ、じゃ、ご飯ができたら起こすね」
「サンキュー。いてて、筋肉痛だ」
あとでポーションも飲もう。VITを上げると違うのかな? いや、今はSTRだけに絞っておくか。また死にかけて後悔はしたくないし。
「真衣、お米ってどれくらい入れれば良いの?」
「二合でいいよ、お兄ちゃん、小食だし」
「そ。じゃあ、カップ2杯だね」
「うん。って、何入れようとしてるんじゃぁお前ぇ!」
「何って、洗剤だけど」
おいおい。
「真衣、お前が全部やってくれ」
「はーい。そういうわけで、柑奈はゲームでもしてて」
「エー」
揺すられて、起きたが、ちゃんとした朝ご飯ができていた。
「おお、美味しそうだ」
「でしょ。家にいれば、毎日これが食べられるのに。お兄ちゃん、一人暮らしやめて、家に戻ったら?」
「そうはいかない」
「そうそう。ナギさんの独り立ちを邪魔しちゃダメよ、真衣。心配なのはわかるけど」
「なんで柑奈がお兄ちゃんの味方するのよ」
「別に。フフ」
僕の顔を見てニヤニヤと笑う鵜飼は何か企んでいそうだが、まあ、真衣の友達なら、そんなに酷いことはされないだろう。
「あ、このご飯、美味しい」
「ふふーん、どう、柑奈、私を見直した?」
「うん、見直した。ところで柑奈……私をお姉ちゃんって呼べって言ったら、どう思う?」
「は? 意味わかんないけど。この料理の腕だとどう考えても柑奈が妹でしょ」
「そういう話じゃないんだけどなぁ。フフ」
また笑った。単に上機嫌なだけだろうか。昨日は初対面で表情が硬かっただけかも。
ただ……、鵜飼の全身から色濃く放たれているピンク色のオーラが心配だ。真衣も多少ピンク色が出ているが、まぁ、怒りや殺気でないなら、放っておいてもいいか。ただの感情だろうし。
「ごちそうさまでした」
「じゃ、真衣、私とナギさんは、このままギルドに行くから」
「そ。じゃあ、私はメイでも誘ってショッピングにでもいくかなぁ。お兄ちゃん、ちゃんと柑奈の面倒をみてあげてよ。パーティーに入れたんでしょう?」
「ん? ああ、昨日はな」
「えっと、ナギさん、不満な点があれば私、直しますし、他のメンバーの人とももっと上手くやりますよ」
「いや、別に不満は無いぞ。鵜飼がいいなら、このまま参加してもらってもいいけど。人数も最低四人は自前で欲しいし、そうだな、ぜひ入ってくれ」
他のメンバーも嫌とは言わないだろうし、ここは誘っておく。
「はい! やった!」
小さくガッツポーズを決める鵜飼はこんな表情もするのか。それを見た真衣がギョッとして「何コイツ」と凄く怪訝な顔をしているが、鵜飼がストレートに喜ぶのは珍しいようだ。