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●第十三話 PK戦

 僕らは三人とも立ち上がれず、しばらくその場で座り込んでいたが、教室のドアが勝手に開いた。


「ったく、散々、粘りやがって。さっさとくたばっちまえば良かったのに。今日は二戦だけで終わっちまったな」


「ですね。まさかトロール相手に三時間も粘る冒険者がいるとは、記録更新ですねぇ」


 なんだ?

 今の会話は。


「おっと。チッ、生きてたか。おい、お前ら、大丈夫か」


 鋼の鎧を着た男を先頭に、装備の良いパーティーが数人、入ってきた。


「……ええ、大丈夫です。死にかけましたけど」


 鵜飼が警戒しつつ答える。


「そうかい。おお、そうだ、ポーションを分けてやろう」


「か、狩野さん、いいんですか?」


「チッ、ここじゃリーダーと呼べよ、クソタコが」


「す、すみません」


「おい、お前らはそっちのに手を貸してやれ。オレはこの変な目の色の兄ちゃんだ」


 狩野さんと言われた男がニッコリと笑い、懐に手を入れて近づいてくる。

 服で隠してはいるが、そいつが握っているのはポーションではなく、ナイフだと僕の【竜眼】はすでに見抜いていた。どす黒い殺気もオーラとして見え見えだ。なるほど、これが新しく(そな)わった【X線検知】と【感情検知(弱)】か。


 ()パーティーは四人。上の階で座り込んでいた中年男がこの場にいないが、彼を入れても五人パーティーなのだろう。


 リーダー狩野のステータスはこうだ。


『レベル 17  狩野満

STR 16

AGI 12

VIT 14

MAG  7

DEX 14

LUC  8

残りボーナス 34』


 vs 僕の今のステータスはこう。


『レベル 9  久々津凪

STR 18

AGI 13

VIT 10

MAG 3

DEX  7

LUC 10

残りボーナス 0』


 技量と体力で粘られると面倒だが、能力的には拮抗していると言って良いだろう。

 冒険者を何人も嵌めて殺しているような最低の連中が相手なら、この手を汚したって気にならない。

 冒険者ギルドも今回の一見はどう考えても正当防衛と認めてくれるはず。


「晶はローブの男。鵜飼は右の男にロープ」


「「了解!」」


 勘のいい二人は、余計な説明は省いても、この状況だ。すぐに察して動いてくれた。


「クソ、バレてるか。片付けるぞ!」


 彼が動いた瞬間、僕は先手で斬りかかった。


「ぐっ、甘えぞ、クソガキ」


 手加減はしていなかったが、ショートソードの切り上げが浅かった。

 相手が半身になりギリギリで少し体を引いたのと、上手く左腕で防御されてしまったからだろう。


 そこに狩野がナイフを逆手に突っ込んでくる。こちらも後退して躱そうとしたが、足を踏まれ、距離を取れなくなった。


「対人戦ってのはこうやるんだ! ド素人が」


 そう言って狩野が僕の左目にナイフを突き立てる。


 キンッ!

 という小気味よい音がした。結構な衝撃も目に伝わったが、痛くはない。不思議な【竜眼】だ。


「なっ? ぐはっ!? ば、馬鹿な、この鎧は鋼のレアものだぞ……? なんでそう易々と刺さる」


 僕のショートソードは彼の心臓をきっちり貫いている。【竜眼】で場所を見抜いているから外しようも無い。


「こっちがもっとレアだからだよ」


 ただ、鋼+1なんてショップでもたまに見かけるから、+2でもレアと呼べるほどでもない気がした。

 武器と防具はやっぱり大事だな。


 ドサリと目の前に崩れ落ちるリーダー狩野。彼のパーティーメンバーが全員動揺した。


「お前らじゃ、この【竜眼】持ちの僕らには勝てない。ここで降伏して自首するなら、命だけは助けてやるが、どうする?」


「こっ、降参だ! 冗談じゃねえ、命までは賭けられねえよ」


 すぐに剣を捨てた戦士が言うが、それならPKなんて参加するなと。

 相手の命を取っておいて、自分は取られるのは嫌ですとか、世の中を舐めてるだろ。


「お兄さん、ちょっと甘くないですか? こいつら刑務所から出てきたら、私たちに復讐してくると思うんですけど」


「かもね。でも、そのときは返り討ちにしてやればいい。こいつらが出てくる頃には、相当に差が付いてるはずだから」


 そのときは容赦しない。確実に殺す。


「なるほどぉ。それも面白いかも」


 それに、複数のパーティーを手に掛けているなら、一生刑務所からは出てこられないだろう。


「いい? 逃げだそうとしたら、私の【毒針】で攻撃するから。毒消し無しだと五分で死ぬわよ」


「や、やだなぁ、逃げませんって」


「おかしな動きも私が攻撃したくなるんで、やめといたほうがいいですよ」


「し、しませんよ。なぁ?」


「あ、ああ」


 PKパーティーの冒険者カードを出させてみたが、パーティー名は『トラッパー』というそうだ。

どうもはじめからそのつもりで結成したパーティーらしく、ここ一年ほどだが、さっきのボス部屋に何も知らない冒険者を陥れて、アイテムをぶんどり、そうやって稼いでいたらしい。


 ゲートチェックで係員に報告し、あとは彼らに任せておいた。


 さすがに自衛隊の自動小銃を向けられたら、僕だって抵抗は諦める。ダンジョンの外では冒険者の力は弱まり、魔素がないせいか魔法もほとんど使えないそうだ。冒険者が強いのはダンジョンの近くだけ。


 ボス部屋の上で僕らに嘘をついた人物も、すでにリリが捕まえて係員に突き出している。

 一件落着だな。

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