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●第十話 回復

「よし、入った!」


 トロールの後ろから、また攻撃が命中。こちらはノーダメージ。これで難易度Cクラスのモンスターなのか?


「余裕すぎだろ」


 いくらしぶとくても、攻撃を当て続ければ勝てる。

 トロールの攻撃も当たりそうにない。

 時間さえかければ……


「お、お兄さん、これ、マジでヤバいです……」


「んん? どうした鵜飼」


 彼女は壁際にいて、攻撃も食らっていないのに、顔面蒼白だ。


「お兄さんの最初の攻撃の場所、よく見てください」

「んん? あれ、どこだ?」


 さっき、三回、攻撃を当てたはずだが、二カ所しか切れ目が見つからない。


「もう傷口が塞がったみたいです」

「ええ?」

「ちょ、ちょっと、それって……」

「ああそうか! コイツ、治癒回復が異様に早いモンスターなのか!」


 Cランクの意味がようやくわかった。

 生半可な攻撃では、相手のダメージが癒えてしまい、蓄積しないのだ。

 それが意味するところは――


「か、勝てない。私たちじゃ、トロールはどうやっても倒せない……!」


 晶が床に突っ伏して言う。


「いや、リリがギルドに報告してくれているはずだ。助けが来るまで待てば良い」

「ダメよ。ボス部屋は一度閉じたら、戦闘中は誰も外から開けられない」

「――なら、倒すしかないな」


 僕らが生き残る方法は、それしかないってことだ。


「こんなのどうやって倒すんですか! お兄さんの攻撃、全然相手に効いてないですよ」

「背中への攻撃だからな。まだ方法はある。致命傷を狙う。クリティカルヒットだ」


 モンスターもそれぞれ弱点があり、そこを攻撃するとダメージが倍になったり、一撃で倒せるという。

 だが、トロールの弱点までは調べていなかった。深層のモンスターより、上層のモンスターの情報をしっかり見ていたのだが、全部目を通しておくべきだったか。


「誰か、弱点は覚えてるか」

「いいえ、私は上層のモンスターしか見てなかった」

「私も、モンスター名とドロップアイテムは確認しましたけど、弱点は……無かったような……」


 意外にも鵜飼は攻略情報を調べ、準備をしっかりしてきたようだ。それでも肝心な弱点は覚えていないし、まさかトロールに出くわすとは彼女も思っていなかったのだろう。


「そうか」


 だが、人型ならば通常、弱点は頭、喉、心臓、膝の裏、かかとのアキレス腱。特に確実なのは頭と心臓だ。

 たいていのモンスターはここが弱点になっている。

 ただ……コイツはぶくぶくと太っていて、心臓はどこにあるか怪しい上に、ショートソードでは長さが届かない予感がする。


「なら、頭!」


 背中を足場にトロールの後ろから駆け上がり、もじゃもじゃの緑頭を剣で思い切り突き刺す。

 ガッと固いモノにあたる音がしたが、貫ききれない。


「久々津! 逃げて」

「おわっ」


 トロールが体を揺すったので足場が大きく揺れ、僕は振り落とされてしまった。着地に失敗し、したたかに肩を打って、動きが鈍る。


「こっちよ、トロール!」


 晶が囮になってくれて相手の気を引きつけ、なんとか逃げ切ることが出来た。


「よし、もう一回だ」

「ダメよ。危険すぎる。分かってる? アイツの攻撃を一度でも食らったら……」

「タダじゃ済まないな。大丈夫、なんとしても逃げるよ」


 だが、三回目に挑戦したところで、トロールの肘が僕の頭をかすった。


「ぐっ!?」


 世界が暗転し、気がつくと、頬をペチペチと叩かれていた。


「ほら、起きて。お兄さんの体重、私の力じゃ、運ぶの厳しいんだから」

「鵜飼か……つっ、状況は?」


 僕は慌てて確認を取る。


「晶さんが身を張って囮やってます。久々津さんが気がつきました!」

「ああ、良かった。久々津の馬鹿! 死んだかと思ったじゃない」

「悪かった」


 ポーションを飲んで、痛みはすぐに引かないが、それでも少しマシになった。


「まさか、まだこの攻撃、続けるつもりですか? さすがに……」

「うん、さすがに、頭への攻撃はちょっと無理だな」


 いちいち体を駆け上がらないと当たらない上に、足場がしっかりしていない場所で下に剣を突き刺そうとしても上手くいかない。


「次は、膝の裏を狙ってみる」


 相手が動けなくなれば儲けものだ。

 数回、当ててみたが、どんどん傷口が塞がっていく。ただし、完璧に治るのではなく、傷跡も付いている。トロールの肌がでこぼこで醜いのは、今までの無数の傷跡があるからだろう。

 途方も無い強敵だ。

 床にクレーターまで作り、一撃で殺されそうな威力もあるから、緊張感も半端ない。


「くそっ、こんなことなら、STRを上げておけば良かった」


 今までこのショートソード+2があるからと、STRはそっちのけで他を上げていた。

 攻撃は最大の防御とはよく言った物で、STRがないとそもそもダメージが通らないこともあるのだ。

 甘かった。

 この【竜眼】を手に入れ、敵の動きがよく見える僕は強くなったと勘違いしていた。

 いや、前よりは確実に強くなっているだろう。


 だが、その強さは、相対的なもの。トロール相手には、まだまだだった。


 上には上がいる。


 生還できたら、きちんと昇格テストを受けて、ランクに合ったモンスター……いいや、もっとランクの低いダンジョンに潜ろう。他人の、しかも初心者が行きたいなんて安直な理由で潜る場所を決めるのは無しだ。攻略情報も事前に徹底して調べておかないと。


「待って、久々津。それじゃ倒せそうにない。他の場所を」

「いや、晶、もう少し試させてくれ」


 今は膝の裏を交互に斬っていたが、もっと同じ場所を斬って、傷口が回復される前にさらに攻撃するほうがいい。【竜眼】があれば、的を絞ることは可能だ。

 同じ場所をしつこく斬っていると、トロールの太い骨が見えた。白色ではなく、黒色の骨。ほんの数ミリだが、骨にも傷はついている。


「よし、行ける。ちょっとずつだが、骨にもダメージが入る」

「でも、もう三十分は戦ってるでしょ。あなたの体力、保つの?」

「それは……保たせるしかないだろう」


 ポーションを飲み干し、気を引き締める。


「ところで、お兄さん、そのポーション、あと何本あるんですか?」

「あと十八本はあるよ。1.5リットルのペットボトル入りの分量だから通常のポーションの七倍……だいたい百二十本分くらいだな」


 そのうちの半分近くは中級、もう半分は初級のグレードだ。味でグレードが変わるのも面白い。何本かには疲労回復効果や眠気除去の効果も付いている。


「百二十?! な、なんでそんなに」

「いや、いろいろ味を試してて、楽しくなって作りすぎたから。ま、この【次元アイテムボックス】と【竜眼】さえあれば……やれると思う」

「攻撃を食らわなければね。いくら相手が遅い攻撃でも、気をつけて、久々津。直撃を食らえばいくらポーションがあっても死ぬわ」

「ああ、分かってる。二人も、トロールに変化があれば、細かいことでも教えてくれ」

「わかった」「了解」


 だが、変化は僕が真っ先に気づいた。


「くっ? 抜けない?」


 骨の一カ所を切りつけていたが、刃が食い込んだまま抜けなくなった。


「離れて!」

「いや、しかし、ここで武器を失ったら」


 無理してでも抜くか?


「何言ってるの! 死んだら終わりでしょ!」


 晶が怒鳴るので、仕方なく剣を手放す。


「仕方ないなあ。お兄さんって、真衣よりさらに一段抜けてますよね」

「ぐぐ」


 真衣も一緒に小馬鹿にされたみたいでちょっと悔しい。

 鵜飼はロープを結んでで先っちょに輪っかを作るとそれを器用にトロールの足に刺さったままの剣に向かって投げた。


「おお、一発で成功か」

「私、それなりに器用なので。さ、感心してないでお兄さんも一緒に引っ張ってください」

「わかった」


 晶も加わり、三人で引っ張る。


「「「せーの!」」」

「GUOOOOOOO――――!」

「うわっ」「「きゃっ」」


 トロールが暴れ、だが、その拍子に剣は抜けた。


「ふう、回収成功」

「次は別の方法を試してください。今の結構、危なかったです」

「ああ、だが、任せてくれ。食い込み対策はもう思いついた」

「ホントですかぁ?」

「本当だ。骨を一カ所からじゃなくて、V字やくの字みたいに、二方向から削っていく。そうすれば刃が食い込んで動かなくなるってことはたぶん避けられると思うよ」

「だといいですけど」


 余計に時間はかかるが、今はこれしか思いつかない。

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