●PKパーティー『トラッパー』視点
代々木ダンジョン、地下七階。
この階層は、オークがうろつくエリアだ。多少しぶといモンスターだが、オークはそれほど強敵ってわけでもない。Dランカーの冒険者は多少苦戦するだろうが、Cランカーの実力があれば力押ししかしてこない敵は楽勝だ。トンカツがしばらく食えなくなるから嫌だなんて言う冒険者もいるみたいだが、モンスターが豚と似てたからって、豚が食えなくなる神経ってのがそもそもよくわからん。ま、どうでもいい。
「リーダー、本間が次の獲物と接触しました」
タバコを吸って待っていると、メンバーの一人が、そいつの小さなコウモリの使い魔をこれ見よがしに見せながら報告に来た。しっかり働いてる分、分け前を増やせって言いたいんだろうが、タダの連絡役が偉そうに。
「おお、さすが土曜日、景気が良いな。こりゃ一日で三つパーティーをやれっかも」
「でも、このやり方、待つ時間がキツいっすね。地上で待ってるってわけにはいかないんスか、狩野さん」
新入りのヤツが言った。あーあ、コイツは完全なハズレだな。メンバーに切れ者すぎるヤツがいても困るが、ポンコツ過ぎてもダメだ。
「馬鹿か、お前」
「へ?」
「ゲートチェックがあるだろうが。いくら国交省とギルドが間抜けでも、冒険者が死んだ時間帯や死体が発見された時刻は全部記録されている。死体解剖で死んだ時間はバレんだよ。でだ、その時間に、ちょうど毎回出入りしてる冒険者パーティーがいたら、どうなると思う?」
「す、すみません、足がついちまいますね。考えが回りませんでした」
「気をつけろよ。待つ時間も必要な時間だ。レアアイテムを回収して、ギルドを通さず闇ネットで売り飛ばす。たまに詐欺られたり、レアアイテムすら出てこないときもあるが、それも全部込み込みで必要な手間なんだよ。トータルで儲かれば何の問題もねえ」
「で、ですね」
「ふん。だが、この方法なら、確実に稼げる。ダンジョンで銀色や滅多に出ない金色の箱を開けるために、いちいちモンスターと戦ったり、未知の危険がてんこ盛りの未踏エリアなんて行く必要もない。時間さえかけりゃあ、レアアイテムが取り放題だ。美味しいだろう?」
「え、ええ、そうっスね」
「だから、あと二時間は黙って待て。落とし穴に引っかかった間抜けなパーティーが、脱出不可のボス部屋できっちり料理されるのに一時間ってところか。メンバーに回復系がいれば長引くが、それでも二時間がこれまでの最長記録だ。トロールは低ランカーには絶対に倒せない。どうやってもな」
「やたらしぶといボスらしいっすね。でも、倒せる冒険者も中にはいるんじゃ……」
「いるな。だが、本間にはレアアイテム『歴戦のモノクル』を持たせてある。倒せそうな冒険者には、「仲間とはぐれました」とだけ言って「そちらには落とし穴がありますよ」と教えてやればいいだけだ」
「な、なるほど、獲物を選別するのか」
他にもスマホを置いて穴の中央に引きつけたり、メモ用紙を置いて床から注意をそらしたり、血痕を付けたり、いろいろとお膳立てはしている。ま、それでも見抜かれることも想定して、斥候役は使い捨てだ。毎回あそこに同じ顔の冒険者がいるといくらなんでも怪しまれるからな。
あの落とし穴はオレ様が発見した。もちろん、ギルドには未報告だ。
最初に落ちたときにはメンバーが二人やられてオレも死にかけてしまったが、最高に興奮したね。なんてこった、ギルドの攻略情報にも載ってねえ! ふざけんな、クソが、こりゃあ、他のヤツを嵌めるのにいい穴場になるってな。
ピンチは最大のチャンスってヤツだ。
オレの【罠増幅】スキルも今までは使い勝手がいまいちだったが、ここなら上手くハマる。
低層の地下五階でボス部屋直通、しかも第十三層の深層モンスターが出るなんて、誰も思わないだろ?
地下五階ですら未踏エリアだらけの広大な代々木ダンジョンは、これだから最高なんだ。
代々木ダンジョンがあれば、他はいらねえ。