●第七話 PK?
「あの人は嘘をついている」――リリがそんなことを言うので、僕は疑問に思った。
「リリ、どうしてそれが分かったんだ?」
「それは、ええと……なんとなく?」
「そっか」
リリの直感らしい。だが確かに、仲間が重傷を負ったにしては、あの冒険者、落ち着きすぎている感じもする。
「だけど、悪い人には見えなかったな」
「そうね。どっちかというと甘い久々津みたいな感じ」
晶が言う。
「はは……」
覇気が無い感じなのは確かに一緒だな。
「つけ込まれてなんかパシリみたいなことでもやらされてるんですかね。じゃあ、ここは無視で?」
「いや、そうはいかないよ。証拠が無いし、本当に重傷だったら、助けないと」
「別に、私たちが助ける必要、なくないじゃないですか。地上へ戻って、ギルドへ報告でも感謝はされると思いますよ」
鵜飼の言い分も理解はできるが……
「ううん、でもなぁ」
「そうね、重傷で出血があるのなら、早めにポーションを飲ませてあげたほうがいい。これで回復するかどうかは別として、何もしないで、あとで後悔するのはまっぴらだわ」
晶も助けるほうで賛成のようだ。
「そうですか。お兄さん、あくまで可能性としてですが、もしもPKパーティーなら、後ろから襲ってくると思うんですよね」
「ああ、そうだな、囲い込んで不意打ちってところだろうな。リリ、君はこの教室に残って、後ろを警戒してて。残り三人で奥の教室に入る」
「はい……でも、私は久々津さんと一緒が良いです」
「わがまま言わないで、リリ。リーダーの決定よ。それに誰かが残って後ろを警戒していないと」
「むぅ、でも私は嫌です」
「うーん、リリの魔法は、距離がある方が有利だろ。先手が取れるし」
「はい……」
誰か一人がここに残るとして、鵜飼はレベルが低すぎるので無理だ。
「索敵も、【竜眼】よく見える僕の方が、進むメンバーにいたほうがいい。僕は、その方が安全だと思うんだ」
「わかりました。ではその通りに」
「なんか、リリって久々津の言うことだけは素直に聞くわね。まぁいいけど」
「理由が分かったからだろ。買い物に誘ったときは晶の言うことも聞いてたし」
「そうかしら」
リリは僕の布団で寝ていたり、ちょっと突拍子もないところがあるが、基本的には賢いと思うし。たぶん。
「フフ、お兄さん、いろいろと大変ですねぇ」
「ええ? 何が」
「なんでもないでーす。じゃ、どうぞどうぞ、お先に」
鵜飼はもうPKだと確信しているようで、僕に道を譲った。
「でも、この先の教室、誰もいないと思うぞ?」
開けてみるが、やはり誰もいなかった。
「待って。あそこに血痕がたくさん。あと、何か落ちてる」
「スマホ? 一応、あの人に渡しておくか。だけど、何かこの部屋……」
紫色にドアの辺りが光っている。
「何? どうかしたの、久々津」
「ああ、ほら、このドアだけど、変な色に光ってる」
「ええ? 別に、普通の色じゃない?」
「そうですね。私にも普通に見えますけど?」
「ううん、そっか。じゃ、幻覚のパターンかな……」
【竜眼】にはときどき変なものが見えてしまう。
「ちょっと……だからあの『万能薬』買っておいたほうが良かったのに。大丈夫? 久々津。鵜飼さん、それ拾っておいて」
「えっと、晶さんお願いします」
「もう。あなた、他人が触ったスマホ、触れないタイプなの?」
「んー、まぁ、時と場合によりますね」
「意味わかんない。あれ、メモ書きもある。『天井に気をつけろ』 んん?」
天井を見るが、特に何も……
「晶さん!」
鵜飼が先に気づいて鋭い声を上げ、僕もその予想外の光景に目を疑った。