●第十話 【竜眼】
「あ、すみません、あそこにもオトギリソウがあるので、ちょっと取ってきます」
「ええ、構いませんよ。でも、良く見つけられますね。私より視力が良さそう」
「ほんま、ようあんな遠くの、しかもツタの裏とかに生えてるのを、よう見つけるな。あそこ言われても、ワイには全然見えんかったで」
自分でも視力がかなり上がったのが実感できる。これもこの黄金の瞳、『竜の瞳』のおかげだ。これって、治さない方がお得な気がしてきたな。
「久々津、その視力、やっぱりおかしいから、早めに『万能薬』を手に入れたほうがいい」
晶が難しい顔でそんなことを言ってくるし。
「いやいや、『万能薬』は十五億円もしただろ。ちゃんと薬草も集めてるし、もう少し待ってくれ、晶」
「うーん。でももし、左目だけじゃなくて、顔全体が金色になったりしたら……」
「なんやなんや、リーダーはんのその左目って、カラコンとちゃうんか。えらい決めてる中二病やなぁ……って怖ぉてあえて触れずにおったんやけど」
そう思われてたのか。黒のカラコンでも入れておこうかな。
「久々津さん、体調はどうですか?」
二条が心配してくれた。
「ああ、まったく問題ないです。よく見えるくらいで。痛みもなし」
時々、幻覚も一緒に見えているのだが、そこは晶を心配させたくないので黙っておく。
「ならいいけど……」
晶が自分の責任を感じてか、心苦しそうに言う。
「気にしなくて良いよ、晶。さて、回収完了っと」
立ち上がってみんなの方を見ると、新手の敵がいるのが見えた。
「マーモットがいます!」
僕はすぐに警告する。
マーモット、上野ダンジョンの東エリアではもっとも注意すべきモンスターだ。
二本足で立つビーバーみたいな格好はむしろ可愛らしいのだが、こいつは【絶望の叫び】というスキルを持っており、これを聞いてしまうと、金縛りになってしまうことがある。単体では怖くないが、集団で現れたり、金縛りになったところをホーンラビットに襲われると重傷を負いかねない。
「うおっ、どこや。はよ片付けな」
「一時の方向と九時の方向にそれぞれいます。私は前方を。どなたか左をお願いします」
「よっしゃ、左はワイに任せたってや! ――赤き四元素の精霊サラマンダーよ、我が熱き魂の叫びに――」
「AHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH――!」
マーモットが古手川が呪文を唱え終わる前に叫んできた。
耳障りで猛烈な叫び声に、古手川は金縛りになってしまったようで、呪文の詠唱が途中でピタリと止まる。
「古手川さん! いけない、ホーンラビットが!」
さらに左から、ホーンラビットが出てきた。まずいな。
「私が止めるわ」
「いや、晶、先にマーモットを」
見ればマーモットは今にも再び絶叫しようと息を吸い込んでいる。
させるか、止まれ!
マーモットに向かってショートソードを振りかぶり駆け込みながら、にらみつける。
「AH!」
止まった? まあいい。そのままショートソードを振り下ろし、厄介な敵、マーモットを片付けた。
『レベルが2つ上がりました。
レベル 5 久々津凪
STR 8+2
AGI 8+1
VIT 5+1
MAG 3
DEX 4
LUC 9
残りボーナス 4
次のレベルアップに必要な経験値 21』
な、なんだこれ? まるでゲームみたいな表示が、脳裏に浮かんでいる。
『【竜眼】がレベル2になりました。
獲得済み:【夜目】【視力向上】【探知】【直感】【レア発見】【威圧】【赤外線】
新たにに獲得:【察知】【鑑定】【推測】New!』
『ツリー:
土竜【突進】
風竜【羽ばたき】
炎竜【炎の息】
氷竜【凍てつく瞳】
水竜【メイルシュトロム】
雷竜【サンダーブレス】
白竜 ???
黒竜 ???』
「なん……これ? え? え?」
目の前に現れるゲーム画面に困惑する。特にツリーの土竜や炎竜って、僕、これを選んだら、竜として進化しちゃうのだろうか? さすがにそれはいろいろと困る。スキルだけなら良いけれど……。
「クリア! 久々津さん、今、あなたはマーモットをその【竜眼】で止めたようですが、そんなスキルを?」
「久々津、何ぼーっとしてるの、マーモットの金縛りになった?」
自分が呼びかけられていたことに気づいて、我に返った。
「ああ、いえ、そんなスキルは持ってなかったはずなんですが。大丈夫、金縛りじゃないよ。ちょっと変なステータスが見えただけ」
「ステータス?」
晶のほうを見ると、
『レベル 7 里森晶
STR 9
AGI 9
VIT 5
MAG 6
DEX 10
LUC 8』
こんな数字が顔の横に並んでいる。彼女のレベルは7で間違いないので、これは……ステータスが見えるスキルか!
試しに二条を見てみたが、彼女のステータスはすべて???となっていて何も分からなかった。
「んん? 二条はん、【竜眼】ってどういうことや? ワイと二条はんは野良で、このパーティーとは初顔合わせやったんちゃうんか?」
「はっ! そ、そうですけど、なんだか竜っぽい目だなぁーって」
「そうか? まあ、竜と言われてみればなるほどそう見えるかもしれんが、ワイは猫の目に見えたで。でも……」
「ささ、次に行きましょう、みなさん! どんどん薬草を集めましょー!」
「んん? まぁ、そうやな。細かいことはええわ、調子ええし、どんどん行こか」
ステータスの事は気になるが、今はダンジョンの中、あとにしよう。




