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●第九話 薬草集め

 僕が魔石とドロップアイテムの角を拾い集め、普通の袋に入れておく。例の黒い箱――念じれば入るチート級レアアイテム【次元アイテムボックス】――はここでは使わない。まだ長期間保存できるのかその辺の信頼性がわからないので、分配アイテムを入れるのはやめておいたほうがいいだろう。


「リーダーはん、ホーンラビットの角は別に集めんでもええんちゃう? かさばるだけで、たいした金にならんし。なんぞ調合や武器の素材でも集めとるんなら話は別やが」

 古手川が言う。


「うーん、まあ、持ち物が一杯になったら、考えます」

「そうか。じゃ次や。それと二条はん、ワイらも経験値を稼ぎたいから、多少間引いたら、敵を何匹か残しといてくれるとありがたいで」

「あっ、そうでしたね。気が回らずにすみませんでした」

「いやいや、全然かまへんって」


 ラストキルを取らなくても多少はおこぼれをもらえるのだが、二条はレベル15と結構な高レベルなので、そのほうがいいだろう。レベル差があると、ほとんどもらえないとも聞いたし。ちなみに、僕は今、レベル3だ。仕組みはよくわからないが、冒険者カードは自動的に経験値とレベルを集計してくれる。レベルが上がっても強くなった気はしないが、ま、レベル3じゃそんなものだろう。晶はレベル7、古手川はレベル8だ。


「ホーンラビット3匹。私が一匹だけ間引きます」

 新しい群れが現れ、真ん中を二条が片付け、左右に別れて突っ込んできたホーンラビットをそれぞれ古手川と晶が攻撃する。


「――四大元素がひとつ、炎より生まれし精霊サラマンダーよ、我が熱き魂の叫びに呼応し、その小さき息吹で敵を焼き払わん、ファイアボール!」

 古手川が呪文を詠唱すると、手のひらほどの大きさの炎球が勢いよく飛び出し、ホーンラビットに命中した。炎は瞬く間にその全身を包み込み、ホーンラビットはもがいたあとに絶命した。ふう、あんな魔法は食らいたくないな。


「【毒針】、あっ!」

 晶も命中させてはいるが、ホーンラビットは針が刺さった目を閉じたままで、そのまま大きく晶に向かってジャンプしてきた。


「危ない!」

 とっさにショートソードで僕はホーンラビットを突く。まさかそこまで上手くいくとは思わなかったが、見事に命中し、ホーンラビットを串刺しで動きを完全に止めることができた。


「ふぅ、びっくりした。ありがと、久々津」

「どういたしまして。それにしても、この剣、思ったより凄いな」


 改めて手に握ったショートソード+2を眺める。美しい鋼の刃はまるで鏡のように光を反射して、僕の黄金色の瞳を虹彩やまつげの一本一本まで細かく映し出している。オークションで千百万円もしただけのことはあるな。今のはプリンにフォークを刺したくらいの手応えしかなかった。


「お、リーダーはんもなかなかやるやんけ。自分、前衛でもええんちゃう?」

「うーん、防具もないし、ノージョブなんで」


 一応、冒険者カードのクラスはポーターと役割を登録しているが、これはギルドの認定が不要なクラスだ。二条のナイトみたいな補正や特殊効果は一切無い。さて、ポーターは回収、回収っと。

 おっと、紫色の草が視界に見えた。


「すみません、毒消し草を集めているので、ついでに回収していっていいですか?」


「ええ、構いません」

「こっちもや。それにしても、リーダーはん、そんな草の影になってるところの毒消し草、よう見つけたなぁ。ワイも見つけたら教えるけど、数がいるんか?」


「そうですね。調合もやってみたいので、集められるだけ集めたいです」

 高級毒消しポーションを作って、この『竜の瞳』が治るか、試してみたい。


「ほー、調合か。ええな。ワイはちまちましたことは苦手やけど、ポーションって買うと地味に金がかかるしな、作った方がええわ」


 シソの葉そっくりの毒消し草を別の袋に入れて皆のところに戻ろうとしたとき、ホーンラビットの赤い目がチラリと見えた。


「古手川さん! 後ろ! ホーンラビットです」

「うぉ、ほんまや。いって!」


 警告が間に合わず、ジャンプしたホーンラビットが古手川の腕を突いた。それでも避けて防いだだけマシで、そのままなら首や顔を突かれていたかもしれない。ホーンラビットは攻撃力が高めだから、油断はできない。といっても重傷がせいぜいで、これで命を落とした冒険者がいるという話は聞いたことが無いのだが。


「クリア! すみません、古手川さん、私の索敵が甘いばっかりに」

 二条が申し訳なさそうに謝る。彼女はフルフェイスの兜でバイザーも下ろしているから、視界は狭いだろう。僕が気をつけないと。


「いやいや、こっち側はどう見てもワイの索敵範囲やさかい、悪いのはワイや。ちょっと薬草採りに注意がお留守になっとったわ。ええと、止血バンド、止血バンドっと」


「いえ、私が回復させます。――癒やしの女神エイルよ、その慈悲深き小さな光で、わずかでも苦しみを和らげ、失われし力をかの者に戻したまえ、ヒーリング」


 淡い緑の光が古手川の腕に柔らかく降り注いだかと思うと、傷口がたちどころに塞がった。


「おお、おおきに。初めてヒーリングを見たけど、便利やなぁ、完全に傷が治っとる。バッチリや」

「あれ? 二条さんて回復魔法も使えるんですか? でも、ナイトって戦闘職だから、回復魔法は使えないはずじゃ……」

 僕は疑問に思った。


「あっ! い、いえ、私は、たまたま! そう! たまたまスキルで持っているので使えるんです」

「へぇ」


 回復魔法のスキル持ちなんてうらやましい。傷薬や薬草も持ち歩かなくて良いし、取り出す時間ロスもないから、やはりヒーリングは重要だな。うちのパーティーにもクレリックを募集しておこう。

 さて、索敵、索敵と。


「お、こっちに珍しい薬草がある。名前はわからないけど、後で鑑定してもらおうかな」


「待って、久々津、なんでそれが薬草だってわかるの?」


 晶に聞かれて、僕自身も首を傾げるしかない。


「なんでって……なんとなく?」

「ええ?」

「それ、ほんまに薬草なんか? 見た目、なんや黄色がどぎつい毒草みたいな感じやん。ようわからんのなら、集めんほうがええで」

「いえ、それはセイヨウオトギリソウ、麻痺に効く薬草で間違いありませんよ」


 二条が知っていた。麻痺に効く薬草なら、ちょっと高く売れるかもしれない。ならゲット、ゲット! 収集、収集と! さささささっ。

 二本目以降は、もう袋が一杯だったので、【次元アイテムボックス】のほうに入れておく。

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