●第八話 上野ダンジョン
僕は晶が変な気を起こす前にと、次に潜るダンジョンに付いてきて欲しいと言っておいた。
目指すは上野ダンジョン。
ここはダンジョンと言ってもオープンエリアで空が普通に見える場所で、緑のジャングルが広がっている。野生動物系のモンスターが多い。珍しい薬草もたくさんあるのだ。まぁ、この黄金の瞳――おそらく『竜の瞳』を治せる薬草なんて見つからないとは思うが、何も試さずに高額な万能薬に頼るのは嫌だった。上野ダンジョンの東エリアはダンジョンランクFでモンスターも少なめだ。つまり危険度が低い。
晶がしびれを切らす前にパーティーメンバーがそろうか心配だったが、意外にもすぐに二人の応募があった。
一人は炎を使うソーサラー、もう一人は中級職のナイト。
「よぅ! ワイは古手川才人、ランクEのソーサラーや。よろしくな!」
自動小銃を持ち、ミリタリルックに顔出しバンダナと印象の強い男だ。
「久々津、コイツハズレよ。他のメンバーを募集しよう」
一目見て晶がそんなことを言う。気持ちは分からなくはないが……
「な、なんでや。ワイの何が気に入らんねん!」
「全部」
「くっ、ええやん、見たところ、四人だけしかおらんパーティー、ワイがおらんと、すぐには上野ダンジョンに入れんぞ?」
「そうだよ、晶。ところで古手川さん、クラスはソーサーラーだそうですが……その銃を武器に戦うわけですか?」
ひょっとして弾が炎になるのかと思って聞いてみる。
「いや、これはプラスチックの弾が飛ぶだけでタダの牽制やな。ちゃんと自然に還るバイオBB弾や。地球に優しいで?」
「なるほど」
モンスター相手にモデルガンは牽制としては弱い気もするが、本人がカッコイイと思ってるなら好きにさせておこう。どうせ一時的なメンバーだし。
「地球に優しいって、似合わない」
晶が顔をしかめて、ちょっと酷いことを言う。
「ほっとけ! ワイのファッションが環境に似合わんでも、ダンジョンの敵を倒せりゃそれでええやろ」
「⋯⋯そうね、余計な事を言ったわ。ごめんなさい」
「お、おう」
「私は二条遥、ナイトのレベル15、ランクDです。よろしくお願いしますね」
もう一人のメンバー、金属のフルプレート鎧を着た彼女は、こちらも本格的な装備だ。あれって、普通に本物を買うと五十万円を軽く超えるはずだが、なぜ彼女みたいな中級者がFランクパーティーに応募してきたのか。
「よろしくお願いします」「こっちこそよろしく」
「ところで、久々津さん、あなた方のパーティーは二人だけですか? もう一人の方は……?」
二条が聞いてくるが。
「もう一人? いえ、僕ら『ハイドシーカー』のメンバーは二人だけですよ」
「そ、そうですか。え⋯⋯完全に行方不明だなんて、どうしよう、月見さんになんと言えば……」
「月見さん? 何の話をしてるの?」
「あっ、いえ、な、何でも無いです、こっちの話で、あはは……はぁ」
少し挙動不審だが、月見といえばあの国交省の人だろう。まぁ、二条は物腰が柔らかい人だし、問題ない、……と思いたい。
「しっかし、二条はんやったか、ここEランクダンジョンやから、二条はんには少し物足りんのとちゃいます?」
「あ、いえ、この新しい鎧を慣らしたいだけなので、問題ありません。むしろ低ランクダンジョンのほうがいいくらいです」
「ああ、新装備のチェックか。かっこええ鎧やん。でもフルプレートアーマーはメッチャ重いって聞くで?」
「あー、私のクラスは、装備重量無視の補正がつくので、軽いんです」
「ほー、ナイト職はそんなええもんがつくんか、ええなぁ。それにしても、二条遥って……どっかで聞いたような名前やけど、うーん、あかん、思い出せんわ」
「い、いえ、よ、よくある名前ですから、気にしないでください」
「いや、二条って名前、珍しいやろ」
「あぅ」
「ちょっと! そこ、変なナンパはやめてよね」
「ちゃ、ちゃうちゃう! そんなん全然ちゃうて。名前のことはともかく、ほんならメンバーもそろって装備も完了してるみたいやし、リーダーはん、そろそろ出発しよか」
「そうですね。最後に陣形の確認ですが、二条さんが前衛、他の三人が全部後衛になっちゃうんですが、二条さんは構いませんか?」
「ええ、もちろん。ナイトは常に前衛ですから。ちゃんと皆さんを守りますよ」
「一応、私は【毒針】で物理系攻撃スキルがあるし、ブロックくらいはできるから」
「ワイもこのモデルガンで牽制できるから、あんま気にしてもらわんでもええで? ほな、行こか」
「久々津、古手川が二条さんに変なことしないように、ちゃんと見張っててよ」
「ええ?」
大丈夫だと思うが。
「聞こえてるっちゅうねん。変なことなんてせえへんから安心してくれ。おっと、さっそくホーンラビットのおでましや。無駄話はここまで、戦闘に集中せえよ、お前ら」
「なんでアイツが仕切ってるのよ、もう」
文句を言いつつも晶は【毒針】を放って攻撃に移る。
四匹のホーンラビットの群れ。ウサギに角が生えただけの可愛らしいモンスターだが、攻撃力と凶暴性はなかなかの敵だ。は、二匹がこちらに突進してきたが、同じく前に距離を詰めて突進した二条が二匹ともスパパッと切り捨ててしまった。
「うぉ、なんちゅう切れ味や」
古手川が驚く間に、残る二匹も二条が駆け抜けて瞬殺。
「クリア」
そう言って二条が構えを解く。
「余裕みたいね」
「ああ」
これほど強い前衛がいると、パーティーはかなり安定するだろう。初顔合わせで上手くいくか心配だったが、どうやら問題なさそうだ。




