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●第一話 いつもと違う通路

 ゲートを越えた先は、暗灰色の通路が続いている。それまでと同じ地下駐車場のようにも見えるが、風化したように無数のひび割れが走り、天井に蛍光灯がない点が違っていた。


 僕は懐中電灯のスイッチを入れる。

 エミともう一人も明かりを付けたが、ハルトは片手に金属バットを持つだけで、明かりは付けない様子。装備はそれだけ。二人ともチャラい服装だ。茶髪のハルトと金髪のエミ。ま、この場の全員、僕も含めて防具なんてつけてないけど。


「よし、行くぜー。エミ、格好良く撮ってくれよな」

「オッケー、ハルト、任せて」


 このパーティーは動画配信をやるつもりらしい。

 だが、四人では本格的な配信など無理だろう。なぜなら、リーダーであるハルトの歩く姿を格好良く撮るためには、カメラマンが――彼よりも先行して後ろ向きで撮影しながら歩く人物が必要だからだ。そしてダンジョンで先頭を行く者が後ろ向きで進むなど自殺行為なので、別の人間がもう一人さらに先行して、斥候を務める必要がある。

 カメラ役を任されたら嫌だなと僕は思っていたが、ハルトとエミは、スマホ撮影だけで満足らしく、特に指示はなかった。


「そういえば、ハルト、りっくんが言ってたんだけど、この先で白い犬を見たんだって」

「は、犬?」

「うん」

「そりゃ何かの見間違いだろ。ここに出てくるモンスターはゴブリンとスライムだけだ。ギルドサイトにもちゃーんと登録されてる」

「でも、ガチで見たって」


「おい、話はそこまで。モンスターだ。ゴブリン二体」


 二人の後ろを歩いていたパーカーの少女が言う。彼女はずっと黙っていて、ハルト達とは話をしていないので、どうやらこのパーティーの常連ではないようだ。数合わせの一時メンバーなのだろう。

 僕と同じ野良で募集に応じたか。法律でダンジョンに潜る人数は最低でも四人以上が必要だ。高ランク冒険者なら二人でも良いという例外規定があるが、僕らはEやFの最低ランクだし。


「おっし、じゃ、このハルト様に任せてくれ。この金属バットでゴブリンをボッコボコにしてやんよ」

「頑張ってねー、ハルト」

「後ろ抜かれたら、ハイエナ君、ブロック頼むわ。エミともう一人の子は後衛職だから」


 そう言われて僕は動揺する。


「えっ、ぼ、僕も後衛なんだけど」


 まさか募集先のパーティーが前衛一人だけとは思ってもみなかった。

 これだから初見パーティーは嫌なんだよな。

 でも、顔見知りのパーティーとなると、なかなか潜るタイミングが合わず、馴染んだと思っても彼らはあっという間にランクアップして中難易度へと進んでしまう。特に戦闘スキルも持っていない僕のような低能ポーターは、一時メンバーを募集する初心者パーティーくらいしか入れてもらえないのだ。


「心配ない、私もゴブリン相手なら前衛はいらないし、ブロックくらいならできる」


 パーカーの彼女がこともなげに言うので助かった。後衛としか聞いていないし、彼女はポケットに両手を入れたままで武器も見せていないが、ま、なんとかできるのだろう。フードまで被っているので顔はよく見えないが、黒の前髪が少し見える。

 ハルトが金属バットを大きく真上に振りかぶり、薪割りでもするように振り下ろした。


「グギャッ!?」

 見事ゴブリンの頭に命中すると、倒れて動かなくなった。


「おっし、【兜割り】、ジャストミート!」

「やるぅ、ハルト!」


「一撃……凄い」

 僕は目を見張った。


 軽装で鎧すら着けていないハルトだったが、攻撃力はかなりのもので、たった一撃でゴブリンを倒した。僕では同じ金属バットであっても五回は攻撃しないと倒せないだろう。思っていた以上に強い。やはり、戦闘スキルがあるかどうかでダンジョン攻略の難易度は大きく変わる。……残酷なまでに。


「ギギッ!」

「うお、しまった! ハイエナ君、そっち行ったぞ」

「ええ?」


 攻撃力は凄かったものの、モーションが大きすぎて、もう一匹には対応できなかったようだ。今のは縦振りより、横振りのほうが良かったな。


「だから、私が止めると言ってる。【毒針】」


 パーカーの少女が右手をポケットから出すと、拳を振って針を投げた。針そのものは見えなかったが、命中はしたようでゴブリンが目を押さえてわめいた。


「グギャー!」

「うわ、痛そー」

「ナイス、パーカーちゃん! これでクリアだ!」


 ハルトが後ろから金属バットを振り下ろし、ゴブリンが倒れる。彼女も戦闘系だったか。はぁ、戦闘系、多いな。


「ちょっと。私の名前はアキラだ。パーカーちゃんじゃない」

 パーカーの少女はその呼び名が気に入らなかったようで振り向いて抗議した。


「オーケー、アキラ。じゃ、ハイエナ君、ドロップ回収頼むわ」

「了解」


 どうせ今回限りのパーティーでもう組むつもりもないので、僕のほうは不愉快なあだ名も訂正せず、小さな紫水晶を拾う。モンスターの死体は不思議なことに、すぐに煙になって消えてしまうのだ。

 残るのは魔石や宝箱や討伐部位のドロップ品だけ。

 まるでネトゲのようだが、ゴブリンの魔石はほぼ確実にドロップし、一個が二千円ほどだから、これで四千円。四人で山分けだと千円。ショボいが、一時間の探索で十匹くらいのゴブリンを倒せれば、時給五千円のおいしいバイトになる。多少の危険はあるが、踏破済みのボスがいないダンジョンなら、これだけで充分食っていけるだろう。


「エミ、最後の、ちゃんと撮れたか?」

「ちょっと待って、再生してみる。オッケー、バッチリ撮れてる。ほら」

「おお、いい感じじゃねーか。あーでも、しまった、最後に技名を叫ぶべきだったなぁ。ミスったわ」


 編集して音声を後から吹き替えすればいいと思ったが、この二人はそういう作業は得意そうには見えないし、押しつけられたら面倒なので黙っておく。


「魔石二つ、回収終わりました」

「オッケー。んじゃ、次、行ってみよー」

「レッツゴー! いえーい」


「はぁ。うるさすぎ、このパーティー。敵に気づかれまくりだっての」


 パーカーのアキラが小声で愚痴ったが、僕も同感だ。だがまぁ、最大で三匹程度のゴブリンしか出ないこの初心者向けダンジョンなら、さほど問題にはならないだろう。


「あの、アキラ……さん、君の毒針のストックは何本くらいあるの?」


 僕は彼女に聞いてみた。


「は? なんでそんなこと聞くの? アンタに教える必要がある?」

「いや、えっと、武器が弾切れになる前に、早めに切り上げたほうがいいかなって……」

「そ。弾はたくさんあるから心配はしなくていい」

「そうなんだ、わかった」


 ま、彼女も残弾が減ってくれば自分で言うだろうし、つい余計な事を聞いてしまった。はぁ、スキル【コミュ力UP】とか生えてくれないかなぁ。


「あれぇ? ちょっと待って、ハルト」


 エミが立ち止まった。

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