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●第四話 オークション開始

「失礼ですが、お客様、IDカードか整理券をお持ちでしょうか」


 ゴツい黒服が言う。


「はい、これでいい?」


「ううん、冒険者カード、ですか……ウォレットの金額を見せて頂いても?」


「どうぞ」


 晶のヤツ、僕が参加資格について本当に大丈夫か聞いたときに「問題ない」って答えたけど、どうもテキトーに調べただけのようだ。これで入れなかったら、あとで文句を言ってやろう。


「こ、これは大変失礼いたしました、里森様。お連れの方もどうぞ、お通りくださいませ」


「ふう、金色の宝箱が売れた後で良かったね」


 あの二千万円がなければ、きっと放り出されていたに違いない。


「えっ? ああ、そうね。ま、あれだけじゃ全然足りないと思うけど」


「え?」


「何でもない。ちゃんとお金は用意してあるわ。だから心配しないで付いてきて。切り札のクレカもちゃんと持ってきたから」


「いや、ここ、クレカなんてものじゃ到底無理だろ……」


 クレジットカードの限度額からしてもう無理そう。参加者が席の周りで雑談しているが一目で金持ちの集まりだとわかる。ゴテゴテした指輪に、宝石のちりばめられたネックレスや時計、明らかに質感の違う礼装のタキシード。ますます居たたまれない。


「ほら、いいから一番前取るよ、久々津」

「あ、ああ」


 思ったより少ない四列席の一番前に座る。座ってみると、周りの人が見えず、登壇だけが見えるので不思議と落ち着いてきた。ま、オークションだから、参加者が入札するのは自由なのだ。買えるかどうかはまったく別。参加者も主催者も、買えないヤツのことなんで気にも留めないだろう。

 彼らのお目当ては出品される商品だけだ。


 壇上にタキシード姿の男性が上がり、マイクを調整した。


「それでは、お時間になりましたので、これより第四十二回、ダンジョン産物品オークションを始めさせて頂きます。値幅は百万円、入札参加はお手持ちの番号札を上げて合図していただくだけでも結構です。なお、入札された他のお客様の情報についてはプライバシーの観点から、くれぐれも他言無用にお願い申し上げます」


 白い手袋をはめた別の係員が壇上に小さな箱をそっと置き、中身が見えるように開いて見せた。

 奥のプロジェクタースクリーンに、拡大された映像と、簡単な商品説明が写る。


「ではまず最初の品ですが、代々木ダンジョン第四階層のレイスからドロップしたレアアイテム、『清浄の指輪』でございます。効果は毒や麻痺の完全無効化。冒険にとっても心強い一品ですが、コレクターの皆様にとってもかなり実用的なものだと私どもが確信して入手いたしました。これさえあれば日々のデトックスは不要。エビデンスこそ研究過程のため、まだございませんが、アンチエイジングとしてもなかなか有用であると考えられます」


「おお……」「まぁ」


「しょぼっ。毒なら毒消しポーションで充分じゃない」


 晶が小声で言うが、まぁ、その通りだな。ダンジョン産の毒消しは基本、大抵の毒に効果がある。これも現代科学を超えた代物だ。通常、毒は蛇と蜂やムカデで種類が違い、それぞれ別の解毒薬が必要になるのだが、ダンジョン産なら赤い毒消しポーションだけでいい。効かない猛毒もあるそうだが、初心者向けダンジョンにそのような危険なモンスターは出てこない。


「また芸術品としても、精緻な紋章が掘られ、透明度の高いブルーサファイアがあしらわれており、ご覧ください、この美しいカボションカットを。サイズはダンジョン産のため、自動で変化し、どなたの指でもぴったりフィットいたします。では最低価格五百万円からどうぞ」


「ごっ!」


 思わず大きな声を上げそうになって、慌てて自分の口を塞ぐ。


「ちょっと。これくらいで驚かないでよ」


「いや、だってアレ、ギルドで二十万円くらいで売ってたぞ?」


 ぼったくりどころの話では無い。


「それは冒険者価格だからよ。それに、たぶん、選別して傷の無い綺麗なものが用意されてるはずよ」


「ええ……?」


 傷が無いだけでそんなに価値が出るのか?

 まぁ、どちらかといえば、芸術品として、だろうな。

 それから、衝撃的な値段の数々に圧倒されていたが、芸術品の要素が強いものばかりのせいか、僕が興味を引く品はひとつも無かった。


「それで、例の品はいつ?」


 退屈になってきたので、僕は晶に小声で聞く。


「『万能薬』は最後だそうよ。あれは誰にとっても有用だもの」


「……そうだろうね」


 ここにいる誰にとっても有用となれば、当然、参加者全員と競争する羽目になる。こりゃ、手に入れられそうにないな。僕の今の全財産は二千万円とちょっと。金色の宝箱の売却金がなければ、今頃ほぼ文無しだった。しかも、家賃その他の生活費を考えたら、ここで全額使うわけにもいかない。


 ここまで二千万円を下回ったのは最初の指輪だけ。あれも数人が競って一千万円という破格の値段が付いている。治ればいいな、くらいの気持ちで参加したけど、当分、金色の瞳でいいや。


「さて、続きましては六本木ダンジョンの銀色宝箱から産出した西洋型のショートソードでございます。専門家の鑑定結果ではクラスは+2、大変珍しいものとなっており、魔力も検出されています。持ち手は職人のこだわりが感じられる実用一点に特化した握り、あのAランカー冒険者、一条(いちじょう)(はるか)氏より『使いやすい良い剣だと思います』という評価を頂きました」

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