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●プロローグ ダンジョンの『ハイエナ』

 ダンジョン。それは現代に突如出現した最大の謎であった。


 最初は各国の軍や専門機関が慎重に調査していたが、あまりの出現数の多さに民間にも開放され、金とスリルを求める者が殺到する。いつしか僕ら探検隊は「現代の冒険者」と呼ばれるようになっていた。


 雑居ビルの薄暗い階段を下りていくと、静かな広い場所に出る。

 元は、地下駐車場であったらしい。

 冷たいコンクリートの地面には、車の停止位置を示す白線がそのまま残されている。


 ただし、強力な投光器がいくつも奥に向かって設置され、ヘルメットと自動小銃を装備した完全武装の自衛隊員が二人ほど微動だにせず警備しているところが、この場所の異様さを物語っている。


 『関係者以外立ち入り禁止』『危険』とデカデカと赤字で書かれた看板を通り過ぎたところで、地味な紺スーツを着た係員の女性が手振りで壁際に移動するよう、こちらに指示してきた。


「冒険者の方ですね。それでは国交省ダンジョン管理局によるゲートチェックを行わせていただきます。順番に一人ずつ、冒険者カードの顔写真がよく見えるように提示し、お持ちの装備品をAIスキャナーにかざしてください。このF級ダンジョンは、未登録の武器の持ち込みは禁止となっておりますのでご注意ください。また産業廃棄物の持ち込みも法律で固く禁じられています」


 ダンジョンに潜る冒険者は、必ずこのチェックを受けなければならない。出るときも同様だ。

 ただ、検査自体は簡単なもので数分とかからない。

 空港にあるようなゲートをくぐり、僕は係員に冒険者カードを渡す。


久々津(くぐつ) (なぎ)さんですね。体温は35℃……? 少し低いですが、体調は大丈夫ですか?」


 係員の人に顔をぐっと近づけて目をのぞき込まれ、心配されてしまった。その人が美人だったので、思わず緊張する。


「え、ええ、はい、運動不足のせいか、いつも平熱はこれくらいなので。大丈夫です。問題ありません」


「そうですか。では、あなたの装備を確認させてください。主要武器は?」


「このナイフです」


 軽量で小さな十徳ナイフを見せる。通販で買った刃渡り6cmのツールナイフだ。千四百円也。


「え? これだけ? ですか」


「はい、僕は戦闘はやらず、そのぅ、採掘目的なので」


「では、その採掘道具を見せてもらえますか」


「え? ええっと……」


 採掘道具なんて持っていない。だが、今まで潜ってきて、そんなことを聞かれたことは一度も無かったのに。

 規則が変わったのだろうか?


「構わん、通してやれ。そいつはハイエナ、採掘するといっても()()()()鉱石を掘りにきたわけじゃあない。他の冒険者が捨てたり落としたアイテムをこっそり拾って回るだけの簡単なお仕事だ」


 パイプ椅子に腰掛けていたもう一人の係員が、あくびをかみ殺しながら言った。


「ああ、なるほど。ですが、ダンジョンはご存じの通り危険な場所です。特にここはF級ダンジョンで、レアアイテムは望めませんから、今後も長く続けていくおつもりなら、回収者ライセンスや採掘道具でランクアップも考えてみてくださいね」


「はぁ」


 そう言われても回収者ライセンスは実技と筆記試験があり、受験費用もかかる。採掘道具もピッケル一つで数万円という代物だ。こんな低級ダンジョンでは鉱石なんて出ないし、買うだけ無駄。僕は日々の小銭さえ稼げればもうそれでいい。余計な期待はもうしない。


「おーい、低体温のハイエナくーん、早くしてくんなーい? 置いてっちゃうぞー」


 他のパーティーメンバーは全員すでにチェックを終えていたようで、急かされてしまった。


「ああ、余計な時間をかけてしまったようですみません。では、合計4人、パーティーメンバーの半数以上がEランクですので、条件を満たしています。四月十二日午後六時七分、パーティー名『ウェイウェイヒャッハー一攫千金』、ダンジョン名『新宿駅東口ビル』迷宮探索開始、記録しました。どうぞお通りください」


 僕らは反響する足音と共に、投光器で照らされた通路の奥へと向かった。

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